第42話 カンガ湖
「今日はここで一泊しましょう」
私は王都から東にあるケイローの町へ向かう途中にあるカンガ湖のほとりまでやってきた。
夕刻に到着したのは概ね予定通りといったところ。
「とは言ってもさすがに疲れたわ……」
私はどさりと背中の荷物を降ろして地面に座りこんだ。ここまでそれなりの重量を徒歩で運んでくるのはきつい。
(いや、むしろ私はすごいと思っていたのだが)
(え?)
(普通はアイテムボックスに収納、個人の移動は身一つや馬を使う。リノは全て真逆を行った。それは男でもそうはいないぞ)
(うーん、だってそうせざるを得ないしね。アイテムは収納できないし、馬なんて操れないから)
(グラハムに身につけさせ収納すれば良いではないか)
うーん、それはやっぱり嫌。私はグラハム、アオイ、ジョンを呼び出す。
「はーいマスター、話相手が欲しくなった? それとも歩くのはギブアップー?」
アオイが言ってくる。確かに空の移動は楽なんだけどね。私はアオイの背中越しを指差す。
「なぁに? え、カンガ湖? マスター一人でやり遂げちゃったのね……」
私と飛びたがっていたアオイは残念そう。
「お見事ですマスター」
「オイラならもっと時間かかります」
「ありがとう。次はテント建てて夕食の準備するからちょっと手伝ってね」
グラハムにはかまどをつくれる手頃なサイズの石を探して欲しい。ジョンには火種用の乾いた葉や小枝などを集めて。アオイには周辺が安全かどうか偵察を頼んだ。
「じゃあ私は」
一人用テントの設営を始める。シートを取り出してぇ。支柱を組み合わせてこっちをここにあっちはそっちに。最後は広げたシートと……はい完成!
(練習しただけあって手際がいいな)
でもそれも本当にこのテントがうまく作られてるからだと思うのよね。そして私は背のうの横のポケットから筒の様な道具を取り出す。
しっかり握って、振る。それはまるで急に伸びたかのように竿の形状になった。
「で、各節にあるこの部分を……」
起こして固定っと。各節も縮まないように固定して、針と糸をこの直線上の穴に通す。
「よし。釣竿の完成!」
これもあの雑貨屋にあったもの。テントと同じく在庫処分品だった。
私はひとつ疑問に思っている事がある。このテントと釣竿の事だ。これは私みたいな者からすればすごく使い勝手がいい。処分品になっていたのは
「だって普通に大きいテントや釣竿をアイテムボックスに入れておけば組み立ての手間すら要らないでしょ? 誰もわざわざ小さいものや手間のかかるものを使いたがりませんよ」
雑貨屋の店主さんが言うにはこういう事みたい。でもね? アイテムボックスを使えない子供用って事は考えられない?
「子供を一人でキャンプなんてさせる親はいませんよ。それこそ親と同じテントを使うか、荷物は親に持ってもらえばいい訳ですし。それにそれらのサイズは子供用にしては大きすぎるでしょう?」
……最もだった。ここまでは全くもって店主さんのいう通り。じゃあなんでこんな役に立たないものがあるのかってなるでしょ?
「自称発明家が買い取ってくれって持ってくるんですよ。こちらとしては材料なんかはよく購入してもらっているので、まぁ好事家あたりが買ってくれれば良いかな。と引き取っている次第で」
お得意様への還元感覚か! ってその時は深く考えなかった。
でも家で使い方を覚えようと触れば触るほど疑問は深まっていく。
これ、本当に失敗作なのかしらと。話によるとテントと釣竿の製作者は同じ人らしい。
もしも……これらの道具を使用するのが子供ではなく、『私みたいな者』だと初めから想定して製作されていた『完成品』だとすれば?
間違いなく『狩る者』の存在を知っている事になる。もしくは当人がそうである可能性も。でもはこ丸は発明家という肩書きに心当たりはないと言っていた。
なので私の思考はここで詰んでいる。
「マスター、これくらいでいかがでしょうか?」
「オイラもオイラもー」
「マスター、その場所は大丈夫そうだよ」
皆が戻ってきた。まずはかまどを組んで夕食のおかずを釣りましょうかね。
(リノは釣りが出来るのか?)
「ふっふーん。村でもやってたから実は結構得意なのよ? 餌にしたって虫でもミミズでもゴカイでも触れるしね」
「へーえ? ミミズも種類によっては美味しいよね。雛だった頃はよく食べさせられたよ」
「雛! アオイの雛時代? いやそれ以前に私はミミズ食べないからね?」
こんなやりとりもあったけど、まずは日が沈む前に皆のご馳走つくるわよー!
私は皆と水辺にいき、魚が潜んでいそうなポイントめがけて竿を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます