第41話 雑貨屋にて

「この値段はおかしいだろう! 先週はもっと安かったじゃないか! 俺様をハナキン=スカイウォークと知ってふっかけているのか!?」

「そ、そんな事を言われましてもお客様」


 ……うわぁ。ギルドの恥を晒してる現場を目撃した気分だわ。


 私はその様子を横目に通り過ぎ、欲しい品物の在庫があるかを確認する。見本が出てる商品があればそれも見ておこうかしら。


 魔力ランタンや魔力石なんかは普通にあるわね。まぁ、これらはヨーダさんの山小屋にもあったからそれを使う予定なんだけど。


「あ、この水筒かわいい。これ買っちゃおうかな。腰につけれる水筒入れとセットで」


 あとは寝具に使えそうな物を……と。


「え? 何この一人用テント。驚くほど安いんだけど。折り畳みだし軽いし、これなら私一人でも背のうの上にでも括りつけて運べそう」


 これはお買い得だ。是非ゲットせねば。……なんでこんないいものが在庫処分なのかわかんない。


 あとは薪かしら。これは嵩張りそうね。薪の作り方もハンソンさんから貰った本に書いてあったけど、今回は間に合わないからここで揃えるしかない。

 ヨーダさんは持ちきれない荷物はグラハムに詰め込むって事をしてたようだけど、私はその行為にはなんか抵抗がある。


「なので一束にしておこう」


 他にも使えそうなアイテムを見繕ってカウンターへと持っていく。直接並んでいない品は店員さんのアイテムボックスの中なのでそこで頼めばいいわけなんだけど問題は……


「なんだと! 俺様が言いがかりをつけてるって言いたいのか!」


 あれよあれ。買い物中も聞き苦しい音楽の様にずっと鳴り響いてた怒鳴り声。


 さすがにハナキンの気が済むまで待つ気はないし待ちたくもない。関わりたくないけど割り込むしかなさそうね。


(相変わらず妙な度胸はあるのだな)

(度胸かどうかはしらないけど相手ハナキンだし)


 関わると面倒な相手ではあるが、ハナキンは正直私以上に何も考えてないのではないかと思う。と、すればやりようはある。


「すみません、私も会計したいんですけど」

「ああ? 今取り込み中なの見てわかんねぇの……木登りが得意のちんちくりんかよ」


 不愉快だけど我慢。


「なるほどぉ。それがレーアさんに聞かせたがっていた武勇伝ですね?」

「む……いや、これは」


 レーアさんの名前を出されて若干ハナキンの勢いが弱まる。だがハナキンは私の持っているアイテムに目線を移すとニヤリと笑った。


「ハッ! おむつも取れてない新米が冒険の準備でちゅかぁ? なら特別にこの優しーい先輩がひとつお得な情報を教えてやるよ」


 あら。何かしら。


「お前が持っている薪はな、本来その値段の半値で買えるんだ。こんなぼったくりな店で損をしないようお勧めするぜ。な? 高いと思うだろ? 酷いよなぁ、何も知らない様な新人冒険者から巻き上げるような事するんだぜ」

「そ、そんな事は決して」


 ハナキン、今度はお店の人を見てニヤニヤしている。私をだしにしてお店に文句言いたいだけか。


(味方を得たと思っているようだな)

(クレーマーがよくやる手口よね。自分以外がそう思ってる、とか言うの)

(私は皆の為に言っているという奴だな?)

(そうそう。頼んでないんだからその人が言い出した、みたいに持っていくのやめて欲しいわよね)


 まぁでもここは一旦


「そうですね」

「だろ?」


 ハナキン、私の同意を得てちょっと機嫌よくなる。しかしすかさず


「でもそれって、薪を運んでくる山林の町からの道が土砂崩れで通行できなくなって新たな薪が入ってくる目処が立ってないからでしょ?」

「え?」

「!! そう! そうなんですよ。私何度もご説明差し上げたのですが」

「薪は冒険者じゃなくても普通の人が日常的に使うから、値段が上がる前に余剰分は買い占められてやむなく現在はこの値段だと」

「その通りでございます!」

「な、な、な」


 実はジョンがこの情報を仕入れて私に教えてくれていた(会話の盗み聞き等)。市場では色んな相場情報のやり取りは行われているからこういう情報は入手しやすいらしい。私も買い物で市場は利用してたしそのついでにね。 


 ただ姿はネズミなので見つかってしまうと追い回されるか悲鳴をあげられるか笑顔でエサをくれようとするかの三択になるのだとか。


 おっとハナキンの顔がみるみる赤くなってきた。全く、私が味方だといつから錯覚していた? ってやつね。そしてハナキンが怒鳴り出す前に次の句を言う。


「でも、こんな時にさらに倍の値段をつけて買っていくような人には男気を感じますってレーアさんが……」

(言っていたかもしれないし言ってなかったかもしれない)

(なるほど。悪魔の策略だな)

「!? おい店主、その倍の値段で二十束買うぞ! すぐに用意しろ!」

「え? よ、よろしいんですか? 私としましてはこのお値段でよろしいのですが」

「くどい! 俺様は気前のいい男なんだ」

「は、はい。では……」


 ホクホク顔で結構な額を支払い、それをアイテムボックスに収納したハナキンは帰る前にこちらを見て言った。


「どうしてもっていうなら、レーアちゃんにこの事言ってくれても構わないからな」


 ニヤケ顔すぎて狙いが透けて見える。言う訳ないでしょ私の作り話なのに。何がどうしてもなんだか。


 ハナキン退店後私はお店の人(店主さんだった)に猛烈に感謝され、料金がタダ同然になった上に一人で時間をもて余した時にでも是非とプレゼントまで貰ってしまった。


 なんだか心が痛むわね。ハナキンを騙して損をさせたあげく私がこんなに得する事になるなんて。


(得になったのは偶然だ。気にするな)


 ちなみに貰ったプレゼントは……


「あ、これリ・将棋ってやつじゃないの」


 この雑貨屋とその前に間違えて入った酒場とでゲームそのものと手引き書が揃ってしまうとは。むむむ……


(ハッピーセットって感じだな)


 はこ丸はよくわからない事を言った。

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