宇宙人侵略・静岡県の場合
岡本紗矢子
静岡県
ニュースしずおか 速報
静岡県庁にもゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人到来
県庁ペット職員・ポンポコが対応し、退ける
「えー。ちょっと、亜美ちゃん、亜美ちゃん」
リビングでくつろいでいたおばあちゃんが、ちょうど帰宅した私を振り向いた。
「今の見た? 静岡県庁にもゾンビがどうしたとかって名前の宇宙人が来たって書いて
「え? ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人、来たの?」
「亜美ちゃん、
「このニュースは気になってた。ねぇ、おばあちゃん、速報だけ? 続報は出ないのかな?」
私はおばあちゃんの横に座りこむ。「番組の途中ですが報道フロアからお伝えします」とニュースが始まるのを期待したのだが、残念ながらテレビは、そのままバラエティ番組を続けていた。
ここのところ、全国各都道府県では、独立騒動が勃発していた。ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人という宇宙人が、地球侵略の手始めにまず佐賀を乗っ取り、『肥前さが国』として、日本からの独立を宣言させたのが最初の事件。
もちろん全国は騒然としたが、その後の各県の対応は分かれた。続いて独立を宣言した県もあれば、徹底抗戦する県もあった。どさくさまぎれに「俺たちこそ真の東京である!」と名乗り始めた千葉県みたいなところもあれば、「独立も何も、俺たち、もともと独立国家だったんすけどぉー」とうそぶく富山県みたいな県もあった。
そんななかで、我が静岡県はどういう対応を取るのかと私は注目していたのだが……。
「続き、出ないねぇ。ねえ、おばあちゃん、さっきの速報、なんて書いてあった? 宇宙人が来たって、ただそれだけ?」
「県庁のポンポコさんが撃退したとか書いてあった
「えっ、撃退しちゃったの? なんだー、独立すればよかったのに」
おばあちゃんがお茶を一口飲んで、驚いた顔をした。
「へええー、亜美ちゃんは独立派? どうして?」
「だって静岡って、もともと日本に塩対応されてるじゃん」
「そうかいね」
「そうだよー!」
私は思わずおばあちゃんのほうに乗り出した。
「だってだって、静岡って、東海地方にも関東にも入れてもらえないんだよ。関東は神奈川までだし、東海3県は愛知・岐阜・三重で、静岡どっちにも入ってないよ。それに新幹線の駅、静岡には6個もあるのに、『のぞみ』は静岡ガン無視で名古屋まで行っちゃうじゃん。大阪から東京まで新幹線に乗る人って、愛知県の次に何県があるのか知らないからね? これひどい。絶対ひどい!」
「はあ、なるほどねぇ。それはまあそうだね」
「そうでしょ! それに、まだあるよ。他の県の人は静岡っていうとまず富士山を思い浮かべるみたいだけれど、静岡でも西部地域のこっちからすると、ぶっちゃけ富士山、遠すぎる。実は浜松市から見える富士山より東京から見える富士山の方が全っ然でかいんだもん、正直そんなに身近じゃないよ。ついでに富士山は山梨県との共有財産で、しかも実は静岡より山梨県側で圧倒的に存在感があるシロモノだからね? 富士五湖ぜんぶ山梨県、忍野八海、山梨県。つまり静岡は、存在感が薄い。実は佐賀より、ずぅっと、薄い! だから
「ふーん」
おばあちゃんは、また一口お茶を飲む。なんという薄い対応かと私は拍子抜けした。
「ちょっと、おばあちゃん、のんびりしすぎだよ。おばあちゃんはどう思うの?」
「うーん。亜美ちゃんの言うこともわかるけど、今のままでいいねぇ、おばあちゃんは」
「そんなー。なんでー」
「だって亜美ちゃん。静岡は、そもそも最初から統一されてないんだから。旧国名で言うと遠州・駿河・伊豆の国が無理やりくっつけられて、こんな
おばあちゃんはふう、と大きく息をつく。
「まあ、そういうこと。静岡国を作りたいなら、まず静岡統一からがんばってもらわんと
静岡の現在――
静岡国にもならなければ、静岡をあげて抵抗勢力になるでもなく。
ただ粛々とお茶を飲み、肌を緑に染め続ける、「現状維持」の毎日が続いている。
宇宙人侵略・静岡県の場合 岡本紗矢子 @sayako-o
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