第3話 散策、スイーツ、そして笑顔

「というわけで着きました。ここが王国内の中心部です」

「わぁー!人が、いろいろな種族の人がたくさんいます!それに見たこともない建物も!」


 再び帽子を被ったシロさんは、中心部の賑わいに興奮した様子で答えた。

 犬の尻尾がついてたらすごい左右に振ってそうだなぁ~。


 ここアルバ王国は広大な領地を有しており、その中央にあるこの都市は城壁に囲まれている。今いる中心部には、王族が住んでいる王宮、冒険者ギルド、商会など主要な施設が立ち並び、多くの人が行き交っている。


「そういえば、カグヤさんはよくここに訪れるのですか?」


 少し落ち着きを取り戻したシロさんが尋ねてきた。


「いえ、たまに冒険者ギルドに行く目的以外ではほとんど来ませんね」

「冒険者ギルド、カグヤさんは冒険者なのですか?!」

「依頼は受けていますが、やっているのは誰でも受けられる所謂、雑用依頼ばかりでモンスターの討伐とかはしてないので冒険者では無いと思います」


 冒険者は基本的に冒険者ギルドで登録をし、ランク別に分けられ、そのランクに見合った依頼を受ける。しかし、冒険者ギルドには登録せずとも受けることのできる雑用の依頼もある。その依頼を受けるため僕はたまに冒険者ギルドに行っている。

 依頼を受ける理由?それはもちろん。本業の収入だけでは完全に赤字で生活が困難だから……ははっ。


「でも、積極的に誰も受けない依頼をするなんて、とても立派なことだと私は思います!」

「……ありがとうございます」


 うん。やっぱりこの子はすごく優しくていい子だ。


「さてと、中心部には着いたわけですが、いかがいたしますか?やはりここはひとつスイーツ巡りでも?」

「~~っ?!だからそれはついでだと!」

「では時間も限られていることですし、スイーツ巡りは無しにいたしましょう」

「えっ?!」


 驚いた表情を浮かべるシロさん。……そうだ。


「ついでであれば仕方がありません。中心部は広いですからね。街並みを拝見するだけでも時間がかかりますし」

「くぅ~~~」

「中心部にはおいしいお店がいっぱいあるんですけどね~」


 そろそろかな?


「…………ます」

「おや?」

「スイーツ巡りしたいですぅ!!そのついでで街並みを見て回ります!!」


 今まで意地を張っていた彼女だが、さすがにスイーツ巡りを諦めたくはないらしい。

 いけないいけない。反応がいいからとつい、いじわるをしてしまった。


「ふふ、それでは案内させていただきます」

「もう!いじわるしないでください!!」

「お詫びといっては何ですが、僕のオススメを紹介しますよ」

「それなら、許します」


 少しだけちょろいと思った自分がいたことは黙っていよう。


***


 それから、シロさんと一緒にいろいろなお店を回り、スイーツ巡りをしながら中心部を歩いた。


 街並みを見てみたいと言っていただけに、周囲の建物や人だかりを見ては目を輝かしていた。ついでとは言いつつも本来の目的もしっかりと果たしていた。


 そして今、広場のベンチに座り、彼女は先程買ったアイスを食べている。

 ん?おまえは食べてないのかって?。僕は少食なので、一軒目のお店ですでにお腹いっぱいです。


「はふぅ~。冷たくておいしいです」

「それはよかったです」


 本当によく食べますね。ここまで来るのに軽く十軒近く回った気がするんですけど。やはりスイーツは別腹なのかな。

 夕日が落ち始め、あたりはだんだんと暗くなっていく。


「それはそうと、いかがでした?中心部の街並みを拝見してみて」


 アイスを食べ終えた彼女は真剣な顔し、


「そうですね。私が想像していたよりも賑わっていて、たくさんの種族の人々が行き交っていて、いろいろな建物や景色があって、一人ひとりの生活の営みを垣間見ることができたと思いました。あとは、自分の世界がいかに小さいものだったのか思い知った気がします」


 そう言葉を紡いだ彼女の表情は、今まで見てきた笑顔や怒った顔といった豊かで晴ればれとしたものでは無く、どこか不安や悲しみを帯びた暗いものだった。


「あはは、変な感想ですよね」

「そんなことありませんよ」


 苦笑いをした彼女の顔が再度暗くなる。


「……実は私、カグヤさんに隠していることがあるんです」


 少し間をあけた彼女は突如として打ち明けた。


「不誠実ですよね。助けてもらった人に対して自分の都合だけを考えて隠し事をして、そのあとも何食わぬ顔で一緒に歩いて、自分がいかにちっぽけで自分勝手な存在なのか気づいてしまって、ってなんか急にすみません」

「知ってましたよ。何かを隠してること」

「え?」


 まぁなんとくなくだったけどね。


「それよりもあなたは少し勘違いをしています」

「勘違い?」

「まず、隠し事をすることは不誠実なことじゃありません。人間誰しも、隠したい事の一つや二つしているものです。かくいう僕もあなたに対して隠し事をしています」

「でもっ」

「それに助けたことと隠したことの内容は関係ないからね。次、ちっぽけなのは悪いことじゃない、むしろいいことだよ。今気づけたってことは、この先大きく成長することができるってことだからね」

「……」

「最後に。君は決して自分勝手な存在ではないよ」

「そんなこと」

「そんなことあるよ。僕が仲裁に入って男に狙われたとき、君は自分のことよりも他人であるはずの僕の身を心配してくれた、そしてこうして罪悪感を打ち明けてくれたことが、なによりも君が誰かのことを想うことができる優しい子だからだよ」

「っ!」


 紛れもない本心だ。この僅かな時間に一緒に過ごしただけでも彼女の人柄、優しさを何回も感じたのだから。


「以上。分かってもらえたかな?」

「か、カグヤさん、あ、ありがとう、ございます」


 彼女の目には少し涙が溢れていた。


「こちらこそ、今日は君のおかげで楽しい時間だったよ。シロさんはどうだった?」

「私も楽しい時間は過ごせました」


 そう答えた彼女の顔は、今日見た中でも一番の笑顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隠れ家喫茶の黒い猫 天鍵ルク @bloodvampire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ