第2話 雑談
それでは改めまして。いらっしゃいませ、猫の隠れ家へようこそ」
「お、お邪魔します」
最初はお客さんじゃなくて残念だと思ったけど、結果として久しぶりのお客さんが来てくれてよかったとかった。
「どうぞ、コーヒーとシフォンケーキでございます」
「ありがとうございます。それで、その、お代は」
「あ、お代は結構ですよ。久しぶりのお客さんですのでサービスです。そのかわり、またこのお店に来てくれたら嬉しいです」
常連どころか、普通のお客さんですら来ることが稀だからね。これを機に一人でもお客さんが増えてくれたらいいなぁ~、なんて。
「ささっ、気にせずどうぞ」
「では、いただきます」
帽子の少女はケーキを口に運ぶ。それにしても綺麗な所作で食べるなぁ。どこかの貴族のご令嬢なのだろうか。
「お味はいかがですか?」
「す、」
「す?」
「すごくおいしいです!!生地がふわふわで甘さも絶妙で」
ほっ。一瞬お口に合わなかったのかと思って焦った。
やっぱり自分が作ったもの誰かが食べてくれて、おいしいって言ってもらえるのは嬉しい。それだけでも彼女をお客さんとして招いたのは成功だった。
「ズズッ……ふぅ。ごちそうさまでした。コーヒーも苦過ぎずケーキと合っていておいしいです」
「ありがとうございます。さて、そろそろ本題の雑談といきましょう」
「そうですね。とは言っても何から話しましょう?」
「まずはお互いの自己紹介といきましょう。僕の名前はカグヤです。この猫の隠れ家で店主をしています。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。次は私ですね」
そう言って彼女は被っていた帽子を取った。
「私の名前は、シロです」
今、名前言う前に一瞬だけ間があったってことは偽名なのかな。そのあたりの話題はあまり深く触れないほうがいいか。
肩までの長さの銀髪に整った顔立ち。奥ゆかしい雰囲気。確かに、10人すれ違ったら全員が振り返るほどの美少女だ。
「ではシロさん。あなたがおっしゃっていた大切な用事というのは?話せる範囲内で構いませんので」
「大切な用事とは言っても、そこまで重たい内容というわけでは無く、その、中心部の街並みがどのようなものなのか見てみたいなぁ~、という」
「中心部、ですか?」
「あわよくば、スイーツ巡りとかできたらいいなぁ~っと」
中心部の街並みが見たいってことは、外から来たのかな?それか箱入りのお嬢様だったり。
それにしても、スイーツ巡りがしたかったとは。確かに僕が出したケーキもかなり早くに食べ終わってたし。もしかして、見た目に反して食いしん坊なのかもしれない。
「なるほど。それが大切な用事でしたか」
「あ、いま少し馬鹿にしましたね。違いますから!あくまでも目的は、中心部の街並みを見ることでスイーツはおまけですから!」
「ふふっ、そういうことにしておきましょう」
「むぅー。いじめないでください」
最初と比べると雰囲気も良くなっていて、だいぶ話しやすくなったかな。
「中心部に行きたいのは分かりましたが、なおさら何故このお店の前で男達に絡まれていたのですか?ここは中心部からは逆の位置にありますし、自分でいうのもなんですが、この路地の近くまで人が来ること自体、稀なことなんですが」
「うっ、それは、その、ちょっとだけ道に迷ってしまって」
「えっ、ちょっと?」
中心部には王宮があるので、たとえ道が分からなくても、王宮を見ながら進めば中心部にはたどり着けるはずなのだが。
「食いしん坊の次は方向音痴ですか」
「方向音痴じゃありません!というか食いしん坊でもありません!!」
「そうかもしれませんねぇ~」
「かも、じゃなくてそうなんです!!」
なかなかにいい反応をしてくれておもしろい。最初の印象よりもだいぶ個性的な子だな。
「もーいいです。それでは私からも質問をしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
「カグヤさんは、本当に男性なんですよね?」
「はい?先程も言ったように僕は男ですが」
あれ?さっき男達を蹴り飛ばした時に言ったはずだけど。聞こえてなかったのかな?
「確かにそれは聞いていましたが、その、カグヤさんの容姿が女の私から見ても羨ましいと思うぐらい綺麗なので」
「そんなことありませんよ」
「顔は小さく整っていますし、くびれがあるスタイルのいい体で、綺麗な女性と言われてもおかしくないと思いますよ」
「ははは、お世辞でも褒めてくれてありがとうございます」
「……お世辞じゃないのに」
最期何かつぶやいた気がする……気のせいか。
スタイルがいいと言うが、ただ生まれつき筋肉が付きにくいってだけだからなぁ。日々気を付けている女性たちと比べるとさすがに見劣りするだろう。
「あっ!私そろそろ行かないといけません」
「時間制限ですか?」
「いえ、時間的余裕はまだあるのですが、また迷ってしまったらさすがに時間が無くなってしまうので、早めに向かおうかと思いまして」
いい判断だね。シロさんなら何回でも迷子になりそうだし。
「よし、それじゃあここで提案をします」
「提案?」
「僕が中心部を案内してあげましょう」
「い、いいんですか!?」
「はい」
最初から話を聞いて、力になれるならなるつもりだったからね。
「でも、お店は大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ、どうせお客さんは来ませんから」
やっぱり自分で言ってて悲しい。
「あの、何から何までありがとうございます!」
「気にしないで下さい。僕も久しぶりにお客さんと話せて楽しめましたから。それでは、中心部へ向いましょう」
「はい!」
さて、この迷子少女をしっかり中心部へと案内して差し上げましょう。
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