隠れ家喫茶の黒い猫

天鍵ルク

第1話 出会い

「おばあさん、そこの果物をいただけますか?」

「はいよ、銅貨2枚だよ。いつもありがとうねカグヤちゃん、こんな寂れた店を贔屓にしてくれて」

「いえ、こちらこそいつも助かってますよ。はい銅貨2枚です」

「まいどあり~」



 さて、今ので買い物も終わったし帰りますか。いやー今日もいい買い物ができた。やっぱり中心部よりも市場のほうが値段が安いし買い物しやすいね。


 あれ?人だかりができてる。


「2年前の事件の犯人まだ捕まってないんですって」

「最近は魔物が活発的だったり、中心部では犯罪も増えたりしてるらしいわよ」

「物騒ね~」


掲示板か。確かに物騒だなー、一人暮らしだから気を付けないと。いや大丈夫か、お客さんが全然来ない路地裏だし……自分で言ってて悲しくなる。とほほ。


 市場を離れ、人通りの少ない道にある住居兼お店を目指す。


「――さい!はな――く――!」

「いい――。お――ぜぇ」


 何やら声が聞こえる。ってお店がある方からでは。もしや久しぶりのお客さん!?

 やったー!!


「いらっしゃいま……ん?」

「いい加減おとなしく俺らと遊ぼうぜぇ~」

「そうそう、優しくするからよ」

「やめてください!私には大切な用事があるんです!」


 そこにいたのは、二人組の男が帽子を被った少女に強引に迫っている現場だった。確かにお店の前に人はいた。ただどう見ても客ではない。

 

さっきまでの喜びを返してよ!


「うん?誰だてめぇ?」


 あ、気づいた。


 少女のほうは明らかに嫌がっているから助けないと。あとお客さん来ないから変わらないけど、営業妨害だからね。


「あの、大の大人が二人で女の子をいじめるなんてみっともないですよ。あとそこ、お店の前なのでどいてください」

「これが店?ハハッ、なあにいってんだこいつ」

「おい、お前見てみろよ、こいつもなかなか可愛い顔してねぇか?」

「なんだよ女か。よし、この嬢ちゃんと一緒に可愛がってやるよ」


 男がにじり寄ってくる。


 あれ、仲裁に入ったはずが標的にされてる。昔からこういう争いごとの時は侮られることが多かったな、事実客観的にも全く強そうには見えないのは認める。穏便に済ませようかと思ったけど、しょうがないか。


「私は大丈夫ですから、あなたは逃げてください!」


自分ことよりもこっちを心配してくれるとは、なおさら助けないとね。


「一つ良いことを教えましょう」

「あん?」


 抱えていていた袋を脇に置く


「ハッ!!」


と同時に男に近づき側頭部を蹴り飛ばす。



「グホッ?!」

「勘違いしてるようですけど、は女じゃなくて男です、よっ」

「え?」

「何っ?!」


 相方がやられて油断していたもう一人にも続けて蹴りを放つ。急所に向かって。


「よいしょっ!」

「はうっ?!」


 おぅ、自分でやっておいて言うのもあれだけど今のはすごく痛そうだなぁ。


 反省はしない。さっき喜ばせた分のやつあたりだから。



「よし、解決っと。おケガはありませんか?お嬢さん」

「は、はい。大丈夫です」



 助けられてよかった。しかし、実際に目の当たりして改めて物騒になってると実感する。

 この後どうしよう。人通りの少ないこの付近で、この娘をまた一人にするのも気が引けるな。


 そうだ!いいこと考えた。


「お嬢さん。先程助けたお礼、ということで一つお願いをきてくれませんか?」

「お願い、ですか?私にできる範囲であれば」

「ありがとうございます。といっても簡単です。あなたのお話を聞かせてください」

「私のお話?」

「はい。絡まれていた時におっしゃっていた大切な用事のこととか、何故絡まれたのかとか。つまりは雑談をしましょう」

「全然構いませんが、それであなたに何のメリットが?」

「う~ん、久しぶりのお客様にコーヒーとお菓子でおもてなしができるということ、ですかね」


 そう、僕が考えたこととは、お礼というていでお客さんとして来てもらことで、僕はコーヒーとお菓子を振舞うことができ、彼女は話をすることで内容によっては僕が協力をし、大切な用事を果たすことができる、という両者にとって得になることだ。


 まぁ、彼女の大切な用事に対して力になれなければ彼女の得にはならないのだけど。


「分かりました。あなたがそうおっしゃるのであればお言葉に甘えて。どこで話しますか?」

「ありがとうございます!それでは僕はこの男達を警備兵のところに置いてくるので、この鍵で先にお店に入っててください」

「え、ええっ!?」


 彼女にお店の鍵を投げ渡し、男達を引きずって走り出す。




 止まっていたはずの時計の針は、今ここから再び動き出した。

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