ひきょうな真似は後出しに限る
田村サブロウ
掌編小説
「ベータ国に戦争を仕掛けるぅ!?」
王室で側近のすっとんきょうな声が響き渡った。
「シー、声が大きい! 防音魔法があるとはいえ、誰かに聞かれたらどうする!」
「あ、すいません。って、いやそうじゃなくて!」
一度謝って、すぐさま側近は国王の説得を試みる。
最も信頼する側近に内密の話があると聞いて来てみれば、とんでもないことを国王は言い出した。
側近は国王を止めなければならない。なぜなら国王が戦争を仕掛けるというベータ国は、
「昨日、不戦条約が結ばれたばかりの国じゃないですか! 正気ですか!?」
「うむ。我が国が遣わした内偵によると、ベータ国には豊富な鉱物資源が眠っているらしくてな。ここ最近、魔石や飛行石が不足している我々としては、渡りに船というわけだ」
「でも、不戦条約が!」
「あんなの奇襲するための方便だ。ウソ・ウソ・ウソだ!」
「周辺諸国からの信頼問題が!」
「ベータ国の周囲の国とは既に話をつけてある。鉱物資源の1割を黙認料として渡す手はずだ」
側近は国王の暴挙を止めようと反論を試みるが、国王はあらかじめ手を打っていたのか反論はつぶされるのみ。
まずい。このままでは我が国の軍が、正当性の無い血の惨劇に手を染めることになる!
「……そもそも、ベータ国に勝てるのですか? 戦争で」
このカードだけは切りたくなかったが、側近は戦争での勝率に言及することにした。
我が軍がベータ国より弱いと取られかねないが、仕方ない。
「なにを言う? ベータ国の軍事力はわが国を大きく下回ることはお前もわかっているだろうに」
「それでも、万が一ということがあります。私が管理責任を持つ預言者の水晶玉を使って、戦争の行く末を占いましょう」
「…………必要ないと思うが、まぁ万全を期すにこしたことは無いか」
国王はしぶしぶ側近の提案に乗った。
これでもし駄目だったら、我が国は外道に染まる。
だが、側近の予想が正しければ――
* * *
預言者の水晶玉を起動して、数分。
戦争する場合の未来をシュミレーションした結果を見て、国王は呆然としていた。
預言によると、ベータ国との戦争は勝利で終わる。
だが、戦争の後が問題なのだ。
なんでも、ベータ国との戦争で我が国がベータを滅ぼしたその直後、疲弊した我が軍にベータの周辺諸国軍が襲いかかるというのだ。卑劣にも不戦条約を破った我が国を討ち、友の国の敵を取るという口実で。
つまりもし我が国がベータ国を滅ぼしたとしても、鉱物資源は我が国の物にならない。漁夫の利を狙ったベータの周辺諸国によって、我が国もまた奪われる側に回ってしまうのだ。
「不戦条約を破った」という口実を周辺諸国に与えるせいで。黙認料の鉱物資源1割など、なんのストッパーにもならない。
「……なあ」
「国王、なんですか?」
「政治とは卑怯なものだと、わたしは父に教わった。だから今回の戦争計画を思いついたのだが」
「卑怯なのは自分たちだけだと思わない方がよろしいかと。どんな国も大なり小なり、狡猾さを持っているものです」
国民の信頼を損ねないよう、表立って出しはしないけど。
側近の言わんとする意図を察知し、国王は肩を落として息を吐いた。
「……いい計画だと思ったんだがなぁ」
ひきょうな真似は後出しに限る 田村サブロウ @Shuchan_KKYM
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