僕と君の閉鎖的シチュエーション

四志・零御・フォーファウンド

夏 × 彼女の家 × 雨宿り


「あーあ」


 ギラギラと照りつけていた太陽は厚い雲に覆われ、土砂ぶりの雨が降り始めた。


 白い光と大地が揺れるような轟音。


 巨大な入道雲は、山に囲われた田舎町へやって来た。


「しばらく降ってるだろうから、あたしのウチで雨宿りしてく?」

「……いいのか?」

「いいよ」


 僕の家は葵の家より倍は遠い。ありがたく好意に甘えることにした。


「びしょ濡れ」


 バケツをひっくり返したような大雨に打たれながら、どうにかして玄関まで辿り着いた。


 彼女を見ると酷い有様だった。ずぶ濡れだ。上着が肌に貼り付き、紫陽花色の下着が透けて見えていた。


「シャツ、絞れるんだけど。ウケる」


 上着を雑巾のように絞る。


「シワになるからやめな」

「へーきへーき。アイロンかければ直るって。ほら、ウチにはいろ」


 久々に訪れた葵の家は相変わらず薄暗く物静かだった。


「しばらく、ウチに誰もいないんだよね」

「……へぇ」


 葵の両親はどちらも医療従事者で、昔から家を空ける時間が多かった。彼女はそんな両親を誇りに思っているので、「悲しい」「寂しい」感情は無いと言っている。――けれど、それが強がりなことを僕だけは知っている。


「風邪ひいちゃうから先にお風呂入りなよ」

「いやいや、さすがに葵から入ってくれ」

「アタシはいーの。ドライヤーで乾かすから」

「でも――」

「いーから。入ってきて」


 葵は僕が押しに弱いことをわかっている。このまま押し問答しても僕が負けるのは明確だ。


 先行を取ってさっさと白旗を上げる。


「……わかった。サクッと入って来るよ」

「しっかり温まっていいからね」

「ん、お湯張ってるのか?」

「帰ったら汗でベタベタだろうと思って予約しておいたの。気にせず入ってね」

「わかった」


 脱衣所に入ると、葵の使っている洗剤の香りが鼻腔をくすぐった。


「脱いだ服は洗濯カゴに入れてねー」

「ああ」


 扉越しに返事をすると、言われた通りに濡れて重くなった服をカゴに入れる。


 風呂場に入り、風呂桶の蓋を開けると、張ったお湯から湯気が立った。ちょっと熱めの41度。湧き立てだ。


 とりあえずはシャワーで全身を浴びた。じっくりと、冷えた身体が温まっていく。


 シャワーヘッドを置こうとして気が付いた。


 縦に並んだ3つのシャワーヘッドフック。昔は一番下のところにしか手が届かなったが、今では一番上にも余裕で届く。


 小さい頃、葵と一緒に風呂に入っていたのが懐かしい。


「ふぅーーーーっ」


 湯に浸かると身体の疲労が流れ落ちる、そんな気がした。


「お湯加減はいかがですかー?」

「うぉ、いい感じです」

「いい感じってどんな感じ?」

「…………いい感じ」

「全然分からないから、確かめていい?」

「別にいいけど――――えっ」


 気づいた時には遅かった。風呂場の扉が開かれ、そこには白い肌を表に出した葵が立っていた。


「え、あっ――ちょっと!」


 慌て過ぎて顔を背けるなんてことも出来なかった。人間、本当に慌てると硬直してしまうものだ。


「タオル巻いてるんだからそんなにビビらないでよ」

「そ、そういうことじゃない!」


 ようやく後ろを向いて彼女を見ないようにした。


「……ガッツリ見てたね。……えっち」

「……っ」


 何も言い返せない。大人しく敗北を認めるしかない。


「久しぶりだね。2人でお風呂に入るの」

「当り前だろ」

「そりゃそっか。――あの頃みたいに身体洗いっこする?」

「で、できるかぁ!」

「ふふっ」


 今日は葵の冗談が過ぎる。まるで、幼かったあの頃に戻ったような感覚だ。変に高揚したせいか、浮遊感が僕の神経を刺激する。


 葵のシャワーを使う音だけが風呂場に響いている。


「こっち見なよ」

「見れない」

「どーして?」

「そういうもんだから」

「答えになってない。私でコーフンするからでしょ」

「しない」

「美少女の身体見てコーフンしないわけないでしょ」

「自ら美少女と言うか」

「どう見たって美少女でしょ」

「…………」


 冗談でも否定できない。彼女は見るからに美少女。学校でも男子からの人気が非常に高い。そんな彼女と一緒にお風呂に入っているこの状況。世の男子からしたら羨ましいことこの上ないだろう。


「否定できないわけか。キミって以外と可愛いとこあるよね」

「うっさいなぁ」

「それじゃあ、お隣失礼するね」

「え」


 湯船が大きく揺れる。


「ふぅ~」


 僕の真横に葵が並んだ。


「気持ち良いね」


 そう言って葵は僕の肩に寄り添った。彼女の体温を直接肌で感じる。知らぬ間に自分で息を止めてしまい、苦しくなった。冷静さを取り戻そうと、大きく息を吸う。


 彼女の温もりは、次第に僕の身体の火照りへと変換されていく。


「葵……」

「キミからのお触り禁止ね」

「…………」


 お預けされたことに僕が渋い顔をしていると、葵は顔を背けながら「……またあとで、ね」と小さく呟いた。



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僕と君の閉鎖的シチュエーション 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123

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