第51話 野球小僧-最終話
「亮君」
ベンチに戻って来ると、金網越しに津田が立っていた。たった1人で亮に手を振っていた。
「ミホちゃん…」
亮は思わず駆け寄っていた。
「すごい、亮君、すごかったぁ。おめでとう。勝ってよかったね。ものすごく練習したんでしょ。あんな…」
津田は興奮して、言葉に詰まった。そんなに興奮した津田を亮は見たことがなかった。
「ミホちゃんのお陰だよ。あのスーパーボールで、スピード感が養われたんだ」
「そんな。そんなことない、亮君が、頑張ったから。いつも亮君頑張りやさんだから、あたしも」
「えっ?」
「あたしも、頑張ろうって、思うの。勉強だけじゃなくて、野球までこんなに頑張るんだもんね、すごい」
亮は、照れくさくて何も言えなかった。もっと言いたいことはたくさんあった。色々と。でも、それは今慌てて言うのが惜しくて、それに何よりも、照れくさくて亮は赤くなって、上目づかいに津田を見ることしかできなかった。
「リョウ!」
サンディが後ろから近づいてきて、亮を抱きしめた。サンディの胸が亮の頭に押しつけられた。
「サンディ、なに?」
あまりに大胆なサンディのふるまいに困った亮は、そう言いながら逃げ出そうともがいたが、サンディは答えようとはせず、亮を抱きしめたまま津田を睨みつけていた。その時、亮は、津田の表情が変わったのを見て取った。
「リョウ、行こう」
「待って、サンディ。まだ、ミホちゃんと話したいんだ」
「行こう。今日はパーティよ」
「ミホちゃんも一緒にどう?」
一瞬、サンディの腕の力が強くなった。と、津田の表情もきつくなった。
「えぇ、亮君と、ゆっくりお話したいから、行かせてもらいます」
サンディは一層きつく津田を睨んだ。が、津田もサンディの視線から目を逸らさなかった。亮は、雰囲気に怖けてしまい、複雑な気分のまま、笑みを浮かべるしかなかった。
『好天の下、野球部グラウンドで行われました、緑ヶ丘学園野球部vs緑ヶ丘学園愛球会の試合は、接戦の末、4対3、サヨナラ勝ちで愛球会の勝利となりました。解説の緑川先生、講評を一言』
『色々と、アクシデントもあり、充分に力を出し切れなかったところもあるかと思いますが、とりあえずは、今、持っている力で勝負しあえた、いい試合だったと思います』
『ありがとうございました。解説は、緑川由起子先生。実況は、あたくし、放送部部長の室和子。技術、同じく放送部の高柳明子。協賛、新聞部でお送りしました。それでは、みなさん、次の機会まで、さようなら』
グリーンスクール - 野球小僧 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi
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