殺人鬼の初恋
@akamura
第1話
「ジェロニモ。こいつの世話をしてやれ」
名前を聞いたかすら覚えていない男が連れてきた子供に、ジェロニモは視線を向ける。
黒い髪に足元を見つめる茶色い瞳。ちらりとあげられた視線には、何の感情も感じられない。
にっこりと笑うと、ジェロニモは相手に視線を合わせてしゃがむ。
「よろしくね。僕はジェロニモ。君は?」
「シルヴィア、です」
「へぇ」
少しばかり驚いた声を上げ、ジェロニモはシルヴィアと名乗った相手をまじまじと見つめる。
顔立ちは東洋人のそれに見えるが、ハーフなのだろうか。考え始めて、しかしすぐに「どうでも良いか」と思考を止める。
目が大きく口の小さいその顔は可愛らしいが、顔が可愛いだけではジェロニモの興味と好意の対象にはならない。幸運なシルヴィアに、ジェロニモが手を差し出した。
少しの逡巡の後、シルヴィアがその手を握り返す。
「この子を使い物になるようにすれば良いのかなぁ?」
「ああ。よろしくな」
「はぁい」
ひらひらと手を振るジェロニモに、シルヴィアを連れてきた男達は強張った表情を浮かべて背を向ける。
こんな仕事をしているくせに、あの男達はジェロニモが怖いのだ。
ジェロニモとしては、彼等に興味などないのだが、そんなことを言ったところで相手は安心しないだろうし、わざわざ安心させてやる義理もない。
それよりも目の前の相手だ。
マネキンのように棒立ちするシルヴィアの手を引き、ジェロニモはワインレッドのソファに彼を座らせた。
「君は、どうしてここに来たのか、聞いても良いのかな?」
「親がロクデナシで。借金を重ねた末に、俺を置いて夜逃げしたんだ」
「そうなの?ひどいねぇ、君は可愛いのに」
白い袖に包まれた手が優しく、シルヴィアの、肉付きの悪い頬を撫でる。
初対面の同性に顔を撫でられるという行為にも、シルヴィアは抵抗もせず、かといって触れ合いを求める子供のようにすり寄ったりもせず、されるままになっていた。
それは情緒が育まれていないからか、或いは、抵抗してひどい目にあったことがある故の学習なのか。どちらでもなければ良いと、ジェロニモはシルヴィアの頭を撫でた。
「ここが何かは知ってる?」
小さな頭が横に振られる。
騙されて連れてこられたなら、それは本当に可哀想なことだ。垂れ目がちなジェロニモの瞳が、悲しそうに伏せられた。
「ここはね。君みたいな子のレンタルショップなんだよ」
「レンタルショップ?」
「そう。君たちみたいな子を育てて、色んなところに貸し出すの」
「………なんのために?」
「うぅん、いろんなこと、かなぁ。傭兵だったり、犯罪の手伝いだったり、それから…………ううん、なんでもない」
「何だ?教えてくれ」
「気にしないで良いよ」
性的な搾取の話をするには、目の前の子供はまだ小さいように見える。
顔は決して悪くないから、いずれはそういう仕事によばれるかもしれない。だが自分に仕込みを頼んできたということは、ひとまずの用途は兵士だと思って良いだろう。
ニコニコと笑ったままのジェロニモを、シルヴィアは胡乱そうに見上げる。
しかし、自分の問にジェロニモが答える気はないと悟ると、次の質問へ移った。
「どうして、皆逃げないんだ」
「うん、当然の疑問だよね」
ジェロニモの手が、肉のない希の手首を掴む。そこには冷たい金属の腕輪が嵌められていた。鍵穴を溶接されたそれを、ジェロニモは指で撫でる。
「逆らったりしたら、この腕輪から死なない程度に毒を打たれるんだ。苦しいよ」
「………貴方も?」
「僕は違うよ」
「なら、どうして」
「君は好奇心が強いんだねぇ。いや、探究心かなぁ。ふふ。頭が良い子は長生きするよ」
「お前は、話をはぐらかすのが上手い」
「?なんのこと?」
不思議そうな顔で首を傾げたジェロニモに、シルヴィアは驚いた表情を向ける。
そんな顔をされたことに、ジェロニモもぱちくりと目を瞬いた。
――――――――――――――
自分のベッドを貸してやり、寝かしつけてから、ジェロニモは誰にも言わずにアジトを出ていった。
その行動を咎めるものはいない。手を貸す代わりに、彼らはジェロニモに報酬と、ジェロニモの『趣味』の隠蔽をする。そういう契約なのだ。
「今日はどうしようかなぁ。この前は………あれぇ?この前、どんな人だったっけ」
足を止め、ジェロニモは首をひねる。集中してみても、思い出せるものは何もない。
困ったなぁ、と小さく笑うジェロニモの前を、ひとりの男性が通り過ぎた。
目を輝かせると、ジェロニモはその男性の後をついていく。
スマートフォンを見て耳にはイヤホンをさしている男性は、ジェロニモに気が付かない。
無防備なその背中に、ジェロニモは包丁を突き刺した。
「?」
背中に感じた衝撃に、男性が振り返る。
自分の背後に立ち、笑みを浮かべるジェロニモに愛想笑いを返そうとした時、漸く彼の体は痛みを認識し始めた。
「うあ、ああっ、痛、いたい、いた………え、え?」
混乱は次第に激痛に飲まれていき、男性はアスファルトに倒れ込む。
びくびくと体を痙攣させる男性の背中から、ジェロニモはゆっくりと包丁を引き抜いた。
「ギぁアああああっ!」
絶叫と共に噴き出す真っ赤な血。アスファルトと、男性の体を赤黒く染めていくそれをうっとりと見つめ、ジェロニモは更に男性の体を傷つけていく。
「ひっ、ぅあ゛あ!やめ、何、あぁああ!」
男性の悲鳴など耳に入らない。ジェロニモは溢れる血に五感のすべてを集中させていた。
ヘマトフィリア。血液に性的な興奮を抱える異常者。それがジェロニモだ。
抑えきれない衝動に身を任せるまま、ジェロニモは面識もない男性を切り刻み、その血を流させる。
白い髪も、肌も、服も。何もかもを赤に染めて、ジェロニモは恍惚の笑みを浮かべる。
男性は既に、物言わぬ骸と化している。その心臓に唇を寄せ、ジェロニモは血を啜る。
本来吐き気を感じさせるはずの血液、しかしジェロニモには、果汁のように甘く美味に感じられるのだ。
やがて、満足いくまで死体を嬲り尽くしたジェロニモは、くるりと後ろを振り返る。
「後始末よろしくねぇ」
微かに聞こえた息を呑んだ音を返事と見なし、ジェロニモは来た道を帰り始めた。
―――――――――――――――――
若いどころか幼い外見、骨と皮しかない手足。
そんな体だから、てっきり貧弱なのだろうと思っていた。
しかしジェロニモの予想を裏切り、シルヴィアはなかなかにナイフの扱いに長けていた。
ぱちぱちと手を叩くジェロニモに、剣舞のようにナイフを振るっていたシルヴィアの目が向く。
「上手いねぇ」
「お世辞にも治安が良いとは言えないところで育ったからな」
「苦労したんだねえ。きっとこれからも苦労するよ。こんなところに来ちゃって」
「………覚悟の上だ」
「なら良いんだけど。ところで、お腹空いてない?ご飯食べに行こうよ」
「俺を外に出して良いのか?」
「僕と一緒なら大丈夫だよ」
差し出された手を、シルヴィアは躊躇いがちに取る。
「君は何が好き?食べられないものとかあるのかなぁ」
「お気遣いなく。好き嫌いはない」
「良い子だねえ」
お腹いっぱい食べさせてやるなら、リーズナブルなレストランか、食べ放題か。量と味とどちらが優先だろうか。
腹の中を探るような目で見てくるシルヴィアに笑みを返し、ジェロニモは軽やかに、昨晩ひとり人を殺した街へと向かった。
―――――――――――――――――
ジェロニモとシルヴィアが帰宅するのと同時に、黒塗りの車が2台、アジトから出ていく。
その車を目で追うシルヴィアの手を引き、ジェロニモは自分たちへ与えられた部屋に戻ってきた。
「腹ごなしの運動、しとこうか」
独り言のように呟くとほぼ同時に、ジェロニモは包丁を構えシルヴィアへ襲いかかる。
手加減はもちろんしているが、シルヴィアにとっては完全に不意打ちである攻撃。しかしシルヴィアは驚いた様子も、動じることもなく、ナイフで包丁を受け止めた。
「よくできましたぁ」
称賛の言葉とともに、左手に握った包丁でシルヴィアの肩を狙う。
右手に構えたナイフでその包丁を受け止め、シルヴィアはジェロニモの顎を蹴り上げた。
「わあ」
「っ、」
体をのけぞらせ倒れるジェロニモの足がシルヴィアの腰に絡まり、転倒の巻き添えにする。片手で自分の体を支え、シルヴィアは左手に握ったままのナイフをジェロニモの首に突きつけた。
しかしシルヴィアのうなじにも、ジェロニモの包丁が突きつけられている。
「引き分けだね」
「そうだな。離してくれないか」
「ちょっと残念だなあ。せっかくだから君の血が見たかった」
「痛いから嫌だ」
「ふふふ、そっかぁ」
ジェロニモの足が腰から離れると同時、シルヴィアは素早くジェロニモから離れ、ソファに丸くなった。
猫のような姿に表情を緩ませ、ジェロニモはシルヴィアに歩み寄ると頭を撫でる。
ついでに口づけをしようとしたのだが、両手でしっかりと拒まれた。
「ベッド使って良いのに」
「あれはジェロニモのベッドだから良い」
「一緒に寝る?」
「嫌だ」
「つれないなぁ」
ジェロニモを一瞥し、しかし何を言うこともなく、シルヴィアは目を閉じる。
薄い体に、ジェロニモはシーツを被せてやると、自分も布団に包まった。
―――――――――――――――
新人の教育係の他にも、ジェロニモに任されている仕事は多い。
例えば、こちらの手を借りるだけ借りておいて金払いを渋るものへの制裁と請求であったり、組織を調べようとする、所謂正義の味方である警察や、場合によっては個人の殺害であったり、拷問であったり。あるいは、商品である子どもたちが失敗した場合の尻拭いであったり。
そうして少しタイミングの悪いことに、今日はそのうちの2つ、子どもたちの尻拭いと、客への督促が重なってしまった。
「僕はお仕事にいかないといけないから、良い子にしててね」
「なんの仕事だ?」
「君に言ったらきっと怖がらせちゃう」
ジェロニモの言葉は嘘ではない。しくじった子どもが生きていた場合、彼等に仕置を施すのもジェロニモの仕事なのだ。
「何をしてても良いけど、逃げるのはやめたほうが良いよ。これは親切心からの忠告」
「これも親切心?」
シルヴィアの足とベッドを繋ぐ鎖を持ち上げ、揶揄するように尋ねるシルヴィアに、ジェロニモは微笑みを浮かべて「勿論」と頷いた。
今回はたまたま本当に仕事が入ったが、ジェロニモが留守にして子どもが一人、という状況は、新しい子どもが入ってくるたびに毎回行っている、いわば洗礼だ。
いいつけ通り大人しく待っているならそれで良い。だが脱走を試みたものには、教育という名の暴力が与えられる。
ジェロニモは流血は大好きだが、殴る蹴るの暴力はあまり好きではない。子どもが泣くのもあまり見たくない。だから、これは本当に、ジェロニモの優しさだ。
例えばジェロニモがシルヴィアを愛していたら、その血を見るために脱走を唆したかもしれない。だが、ジェロニモはシルヴィアに興味がない。
興味のない相手には優しい。ジェロニモという男は、そういう男だった。
「お土産は何が良い?良い子にしてたら買ってきてあげる」
「別に、何もいらない」
「欲がないなぁ。あぁ、じゃあケーキとかどうかなぁ?」
「本当に何もいらない」
「そう?……じゃあ、いい子でお留守番しててね」
ひらひらと手を振るジェロニモに、シルヴィアは律儀にも手を振り返す。
彼に気の迷いが生じないうちに帰ってきてあげよう。そんなことを考えながら、ジェロニモは送迎係に案内されて廊下を歩いていった。
――――――――――――――
足音が聞こえなくなり、気配も消えた。
周囲に誰の気配もないことを確認して、シルヴィアは手首に繋がれた毒の腕輪と、足に繋がれた鎖に触れる。
かしゃん、と軽い音を立てて落ちた腕輪を、極彩色の指がつまみあげる。
シルヴィア―否、希の分身にして半身、殆どの人間に不可視でありながら確かにそこにいるもの。トリックスターに、希は小さな声で囁く。
「囚われている子ども達を、解放してきてあげて」
【わかった】
命のないものを操るその能力は、希とトリックスターの共通の能力だ。ゆえに、トリックスターだけが子どもたちのもとへ出向いても何も問題はない。
「さて――――」
ベッドから立ち上がり、希は変装を脱ぎ捨てていく。
癖のない黒い髪の下から現れた、はねた焦げ茶の髪。色のついたコンタクトレンズの下から現れたのは、血の色をした瞳。
愛用のナイフだけは持ってこられなかったが、支給された品でも任務をこなすには問題ない。
「ジェロニモが帰ってくるまでに終わらせられるかな」
ほんの僅かな間ではあったが、世話になった人間を手にかけることはしたくない。
どうか、彼の仕事が長引きますように。
心の中で祈り、希は錆びついた扉を開け放った。
――――――――――――――
血の匂いがする。
仕事を終えて帰還してきたジェロニモは、扉を開けた瞬間鼻をついた香りに目を瞬いた。
ポケットに突っ込んでいたスマートフォンを確認するが、早く帰還しろだの襲撃されただのという連絡は入っていない。
ならばこれは内輪もめか、或いは連絡をする間もなかったのか。
銃撃の音や悲鳴の類は聞こえないので、戦い自体は終わっているのだろう。しかし死臭に惹かれるように、ジェロニモは建物の奥へ進んでいく。
階段を上り到達した、最上階にして最後の部屋。
期待に胸を弾ませ、ジェロニモは扉を開けた。
「ああ、帰ってきてしまったのか」
「え」
マスカット色をしたジェロニモの瞳が、大きく見開かれる。
血の飛び散って赤くなった壁や床、絨毯。その絨毯の上に転がるのは、長細い針で標本のように貼りつけられた、ジェロニモの雇い主とその仲間。
そして、唯一、ジェロニモ以外で地に伏していないその相手は
「シルヴィア、だよね?」
「………ああ」
震える声で放たれた問に、希は正直に頷く。
ジェロニモが息を呑む音が、希の耳にはっきりと聞こえた。
「これは、どういうことなのか、聞いても良いかなぁ?」
「元々俺は、この組織を潰して顧客の情報を手に入れるために遣わされたんだよ」
「どこから?警察?軍隊?にしては、君は若いよね」
「悪いがそれは答えられない」
「そっかぁ」
「すまない」
「気にしないで」
微笑みを浮かべ、ジェロニモは首を振る。
自分の所属する組織のことなど、答えられないのが当たり前だろうし、聞いては見たが正直なところ興味はない。今はそれよりも、他のことに興味がある。
自分と希の間に転がる雇い主達は、皆気絶はしているが死んではいないように見える。
目当ての顧客リストを手に入れたのならば、彼等などもう必要ないだろうに。
不可解そうに首を傾げ、ジェロニモは問うた。
「その人たち、殺さないの?」
「………………」
「殺したくない?」
「ああ」
「人を傷つけるのは、好きじゃないのかな」
「…………おかしいと思うか?こんなことをしているくせに、人を傷つけることを厭うのは」
血の色をした瞳が伏せられた瞬間、ジェロニモの胸がどうしよくもなく高鳴った。
彼は本当に、人を傷つけることが嫌いなのだろう。人を騙すことも嫌いなのだろう。
けれどその「嫌い」なことをやらなければ得られないものがあることも、ちゃんと分かっている。
自嘲と自己嫌悪に苛まれた顔をしながらも、血のついたナイフを放そうとはしないその姿の、なんと健気で愛らしい。
正しく、優しく、そして、強い。目の前の相手は、そういう人間だ。
高鳴る胸を押さえ、ジェロニモは思わず背中を丸めた。
「シルヴィア、シルヴィア。どうしよう、僕、」
「ジェロニモ、すまない、俺は」
「僕、君のこと……………好きになっちゃった、かも」
先のように加減したものではない。昂りを籠めて振るわれた包丁が、希の腕を裂く。
細い腕から滴る血は、ジェロニモが今まで見てきた血の中でも一番綺麗で、良い匂いがする。
もっと見たい、あの血がほしい。
衝動に任せて包丁を振るうジェロニモに、希は応戦しつつ、困惑に満ちた目でジェロニモを見上げた。
ジェロニモの表情にも、気配にも、怒りだとか殺意だとかは見られない。希に向けられる眼差しには、親しみのような、あるいは楽しみのような色しかこもっていない。
けれど放たれる包丁は、躊躇うことなく希を傷つけようとしてくる。
「お前、今一体どういう気持ちで俺に刃物を向けてるんだ」
「どうって?」
「どうして笑ってる」
虚仮にされたと怒るなら分かる、余計なことをしてくれたと怒るなら分かる。普通の人間であれば、そういうリアクションをするはずだ。
間違っても、瞳を輝かせ頬を赤らめて、笑みなど浮かべるはずがないのに。
理解のできない言動に戸惑う希に、ジェロニモはやはり微笑みを向ける。
「そうだね。普通は笑ってる場合じゃあないよね」
仕事先を潰され、雇い主も捕まり、このままだと自分もまずい。焦って怒るべき状況だというのは一応、ジェロニモにも分かる、けれど。
「でもね。多分、僕は普通じゃないみたいなんだ」
こともなげに言い放ち、ジェロニモは自分の腕に当てた包丁を勢い良く引いた。
噴き出た血が、希の手足を濡らす―――はずだったのだが。
カーテンを盾にして、希はジェロニモの血を防いだ。
「わぁ……!」
ジェロニモは、自分の血を浴びせた相手を操る能力を持っている。だが希に自分の能力を話した覚えも、この数日、能力を使った覚えもない。それなのに、反射的に対応してくるとは。
やはり、彼は戦い慣れている。一層胸をときめかせるジェロニモに、希のナイフが迫る。
足に走る痛みに、ジェロニモは性的な昂りを感じた。仕返しのように希の足を切りつけると、その昂りが更に増す。
「シルヴィア、シルヴィア。ぼく、本当に、君に恋をしたみたい」
「は?」
「君の血が、他の誰の血よりも綺麗に見えるんだ。これって恋でしょう?」
「―――!?」
意味の分からない、分かりたくもない言葉に、希は本能的に後退る。
ジェロニモは希と、自分の後ろにある窓とを交互に見比べた。
希とずっと殺し合っていたいが、状況から察するにそろそろ希の仲間が、捕まえた連中の回収に来るだろう。
「また会おうね、可愛いシルヴィア」
「待―――ジェロニモ!」
名前を呼ばれただけで、背筋を甘い痺れが走る。自分を赤い瞳を抉りに行きたくなる衝動を堪え、ジェロニモは窓枠に足をかけた。
このまま飛び出したのでは、希が追いかけて来かねない。それを阻止するため、ジェロニモは包丁を投げた。
狙いは希ではない。床に拘束されたままの、元雇い主だ。
それに向かって投げた包丁は、死んでも良いだろう相手を庇うために伸ばされた希の腕に突き刺さる。
流れた血の鮮やかさを目に焼きつけながら、ジェロニモはその場から逃走した。
殺人鬼の初恋 @akamura
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