激突、涸沼会戦後編。そして建国宣言へ。

「そんなぁ、殺生な事がありますかぁ。

 敵だらけの私は哀れな女だわ……もし、もしもここで、私の為に身を投げて助けてくれた方には、を余すことなく差し上げますわ。

 もちろん、奇怪な戦車に恥を忍んで乗って差し上げてもいいですわぁ」


 と、色気たっぷりの声色で男性の心を鷲掴みにする言葉を投げ掛ける鶴は、古の悪女であろう。それによりも佐竹を始めとする男どもには効果覿面。目の色を変えて奮起する。


「隅さん、菌さん、懲らしめて差し上げなさい!! 勧善懲悪こそが、茨城県民の総意であるぞ!!」


 と、佐竹が発した言葉が引き金となって、各々が動き出す。


 それを確認した鶴は、頭に金色の狐の耳をピンと立たせて、お尻から九本の尻尾を出しブンブンと振って大喜び。浮かべる微笑みは得体の知れない奥深い恐ろしさを醸し出していた。


「ああ、汚いぞ! 女の色仕掛けを武器にするとは、女狐め! ええい、手をこまねくよりも行動だ! お前達、やっておしまい!!」


 と息巻く雨ダヌキに反応して動くサガ星人たち。


『アラホレサッサ。ヒィー、ヒィー』のタイム〇カンの三人組の台詞か、仮面ラ〇ダーの戦闘員のどちらかの台詞をテレパシー伝いで敵意を示し威嚇しながら、佐竹達を取り囲んでいく。


 菌さんは体を伸ばして威嚇する。隅さんは、菌さんが隠し持っていた模造刀の逆刃刀を右手にして、片足でケンケンとその場で撥ねて敵を威嚇しながら、隙を伺いつつ一気に距離を詰める。


 間合いを詰めたところで即座に両手で刀の柄を握りしめると、竜が飛翔するが如く、地を蹴り、地を滑る様に駆ける。


「飛天なんちゃら流改、天橋立あまのはしだて!!」

 と隅さんは呟き魅せる剣技は、これ正しく、九頭〇閃、いや、天翔〇閃を彷彿させる。


 正しく海面を這う竜が踵を返して天を駆け雲の合間を縫って立ち上るが如く、瞬く間に身を翻して立ち位置を変える動きは星の煌きの如く。美しく、しなやかに身体を変幻自在に動かして一気に斬撃を浴びせた。


 勝敗はアッと言う間に決していた――。


 地に臥すのは反撃の糸口も与えられなかったサガ星人たちだった。


 泡を食った様に覚える雨ダヌキ。ニヤリと笑みを浮かべる佐竹達。が、雨ダヌキは瞬時に余裕を見せるとニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。


「あはは! やってくれるね。だけどね、私にも奥の手があるんだ。その身を以てして贖え。くらえ、おっぱいビーム!!」


 と言う傍から、胸を強調する。

 大どんでん返し。いや、倍返しだ。滋賀県で琵琶湖を蒸発させた禁断の兵器が炸裂する番だった。


 その恐ろしさを噂話で耳にしていた佐竹達は、皆一様に目を堅くつぶる。


 きっと、その身は焔に焦がされるように焼き尽くされて瞬時に灰となる様相が浮かんでいたに違いがない。

 佐竹だけは不様にも失禁して腰を抜かして地に伏していた。


 が、予想を大きく上回り、雨ダヌキの声だけが響き渡り、鴈が馬鹿にするようにけたたましい鳴き声を発していただけだった。


 ややあっての静寂の後。


「あれ、あれれ!? どうしてだよ! ……」


 と焦り懸命に胸を張るが、一向に光が出る兆候すら伺えない。気を取り戻した隅さんと菌さんは、雨ダヌキへと間を詰める。


「あ、そうか。そうか、んだ。胸が大きすぎるのも考えものだね。まさかね、自慢の美貌が邪魔するとは思いもしなかったよ。罪な女だよね、私ってば……」


 とテヘペロを見せて、にじりにじりと後ずさりしながら、レオタードをその場に脱ぎ捨てると土下座して謝り通す。

 油断をさせて置きながら、懐に隠し持っていた煙玉を地に投げ捨て、煙を巻く様にして煙の中を飛び跳ねて逃走を図った。


「やらーれちゃたー悔しいなー、今度こーそー勝ちましょうー、さーよーなーらー」


 と歌いながら去っていく雨ダヌキの様は、何処か懐かしきタイム〇カンの三バカトリオの様であった。


 チャンチャン――。



 茨城県の涸沼で繰り広げられた喜劇の様な時代劇の様ないざこざの後――。


 完成した弩級戦車オニがテレビで大々的にお披露目される中、砲塔上部ハッチから上半身を出して手を振る鶴の姿があった。


 狐の耳をピンと立ててグレーの軍服を身に纏い、微笑みを絶やさず、手を盛大に振って笑顔を振りまく中で、戦車の前で茨城県知事の声明が大々的に発表される。


 声明を読み上げるパリパリのスーツ姿の佐竹と横に並ぶ隅さんは、一様にして目が虚ろであった。


「きけ、茨城県民よ!! 日本を侵略するゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人に対して我々は、決して屈することは無い! 志高らかに告げる!!


 栃木県と茨城県は共に手を取り合い一つの国家として日本より独立することを決めた! 名を【栃城とちぎ国】と呼称する!


 そして今まで秘匿にしてきた秘密兵器である、の大々的な建造をここに宣言する!!


 国民よ、動揺する気持ちは分かるが、なにもサガ星人に恐れる必要は無い。


 サガ星人より奪取したレオタード型の秘密兵器を分析した結果、我々の科学技術を大きく前進させる術を見出す光明の光を筑波の研究施設が見事に応えてくれた。


 待ちわびてくれたまえ国民よ、三年の後、宇宙海賊キャプテン〇ーロックの愛艦である、アル〇ディア号を凌駕する宇宙戦艦の完成を以てして、サガ星人への反抗の旗頭とする。


 計画名は、【サガ星人☆九頭星くずぼし作戦】と命名する。


 そして私と共に奮起して栃城国民よ立て!! 食い逃げの悲しみを怒りに変えて、立てよ栃城国民!! 栃城国民こそ、選ばれたエリート種族であることを忘れないで欲しい!!」


 まるでチョビ髭の独裁者のような演説ぶりを佐竹は見事に披露して、国民へ向けて訴えかけた。


 その背後で不敵な笑みを浮かべる鶴もとい、九本の尾を振る玉藻の姿があった。


 怖い女性の執念とは。仁義なき戦い、いな、金絡みが拗れ、もはや女性の意地の張り合いの決戦の様な気がする……。

(了)



 本作品で少しでも楽しんで頂けたのであれば、幸いです。

 詳しい企画内容は、

 雨 杜和orアメたぬき様の『【爆笑】都道府県オープン参加小説2:宇宙人侵略その後、各都道府県はどうなっている。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816452219500906547

 をご覧に成ってください。

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水戸坂水門~涸沼で恋した鶴は災厄の種だった時代劇に便乗してアニメ祭りを密かに開催だあヨォ!~ 美ぃ助実見子 @misukemimiko

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