第3話 素質

まずやる事、それは村の体制を整える事。



「なあ、国から支援は無いのか?」


「多少はあります。しかし最近どの地方でも魔物の動きが活発みたいで、国から騎士様もいらしたのですがどうも人手が足りていないみたいで直ぐに立たれてしまいました。」


「ふむ。この時代では冒険者の位置づけは?」


「王都にはギルドがありまして、そこへ所属している冒険者がいます。村中からお金を集めて依頼を出し、たまに村周辺の魔物討伐に来るくらいです。今回も依頼は出してあるのですが、ギルドに依頼が届くまでに数日かかるのと、直ぐに依頼を受けてくれるかが定かでは無いので……ましてや魔物の活発化で冒険者の方々も忙しいみたいです。」


 冒険者は自由業だ、彼らはできるだけ利益が良く楽な仕事を受けるだろう。移動は最小に、利益は最大に。


 リーザによるとこの村は王都から最も遠い村の一つで、ここ何十年も田舎なりに平和な村だったらしい。しかし、ここ最近の魔物の活発化に対応しきれず、こんな有様という事だ。


「近くにゴブリンが群生する洞窟があるみたいです。どうやらゴブリンの上位種も確認されているみたいで……」


 確かに訓練を受けてない人間の手には余るだろう。


 アイツらの繁殖力と成長力は人間の比じゃない。


 個々は強くないが、何度も波状に襲撃を受ければひとたまりもないだろう。


「よし、リーザ、まずは基本の術を一通り扱えるようになろう。村の食糧確保ついでに魔術の訓練。つまり、狩りだ。」


「は、はい!」


 あとは医者に説明にいかないとな。


 魔術書と杖を森で拾った事にして、独学で下級呪文を習得した事にしよう。

 村の人間もリーザがずっと魔力操作の修練をしていた事は知っていたみたいだし、何とかなるだろう。


 村の男たちも一晩たてば立てるようになるはずだ。



 外へ出る。家の前に人だかりが…医者め、村人へはまだ黙っていてくれと言ったのに……いや、軽傷の男達も居たし、口止めは難しかったか……


「リーザ……! これは……一体何が……?」


「ここここれはあのですね……」



 医者や治療した男達、村の皆も戸惑っていたが何とか納得してもらえた。村の人間は皆リーザに感謝しているようだ。


 リーザはまた涙を流している、良かったな。


 このモジモジしている少年達がリーザをバカにしたという子達か?まぁそうなるよな。



「リーザ、まだ体力はあるか?」


「はい!」


「それなら今日は魔術の触りだけ教えるとしようか」

 リーザと共に村の外へ向かう。


「さて、一流の魔術師にすると言ったがかつて俺は風魔術に精通していて、大気を操る魔術を得意としていた。あとは治癒術、身体強化術など簡単な補助魔術だ。他の属性の魔術はからっきしだったからそのつもりで居てくれ」


 そう、俺は風魔術以外はからっきしなのだ。


 少なくとも俺の時代は1つの属性を追い求める方が効率が良かった。ひたすら研究し、鍛錬した。


 自慢じゃないが当時俺より強い風魔術師はいなかった。


「魔力がほとんど失われてしまった今、俺一人の力では下級呪文しか使えないが、俺は力を取り戻すために、リーザは成長のために一緒に修練していこう」


「はい! お願いします!」


 まず現状使える術を確認だな。知識はあるが、魔力が追いついていない。


 俺とリーザの魔力を総動員すれば中級魔術くらい使えるだろうが、そんな事したら途端にリーザは動けなくなるだろう。


 魔力は筋力のようなものだ、使えば使うほど強くなる。


 まずは下級回復術、風刃、風矢、風槍、この辺りは使えそうだ。


 風刃ウィンドカッターは範囲が広いが威力は低め。


 風矢ウィンドアローはピンポイントへの高威力射撃。


 風槍ウィンドランスは杖に風の槍を形作る近距離魔術。


 リーザには近距離魔術はまだ早そうなので風刃と風矢を重点的に扱ってもらおう。


「リーザ、とりあえずあの岩へ向かって俺をかざして集中してくれ。魔力操作の要領で魔力を両手へ。今回はその後は俺がやろう」


「はい!」


 リーザから魔力を感じる。ちょっと多くないか? まあいいか。


風矢ウィンドアロー!」


 矢とはとても思えない大きさの……大砲の様なものが発射される。


「ひっ……!」

 リーザは尻もちを着く。


 岩に文字通りどデカい風穴が空く。威力高すぎだろ。


「リーザ」


「はっはい!」


「お前どんだけ修練したんだよ……絶対人へ向けるなよ」


「当たり前じゃないですか……!」


「まあ、弱すぎるより良いからな」



 幸先は良い。

 威力を絞る練習もしないとな。

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杖に宿りし大魔導師の魂 ~手にするは心優しき少女~ @yorunoyobari

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