第2話 リーザ
少女と一緒に急ぎ村へ向かう、幸い魔物には出会わず無事に着いた。
「着きました。ここが私達の住む村です」
木の柵と堀で囲まれた小さな村。
柵はボロボロで、今にも村内へ魔物に侵入を許してしまいそうな雰囲気だ。相当キツかっただろうに。
「いい村だな」
「ありがとうございます。でも……」
少女の表情はどこか悲しそうで、村の人々も疲弊しているように見える。
「とりあえず俺を怪我人の所へ連れて行ってくれないか?」
「……はい!」
村の診療所だろうか…男たちが唸りながら寝転がっている。
30人ほどは居るだろうか。
「1番の重傷者は?」
残りの魔力量がが心もとないので優先すべき人間の所へ行きたい。すると奥から村人が出てきた。
「リーザ……!? 薬草は取れたのか? 精製は?」
そう言えば名前を聞いていなかったな。この少女はリーザと言うのか。
「精製はまだです……が、訳あって今はペドロおじさんの所へ……!」
「……? 分かった。奥へ」
この村の医者だな。真っ青な顔で目のクマも凄い、苛烈さが見て取れる。
少女は俺を連れて行って奥へ向かう。片腕が無い男の前で止まる、全身に高熱を帯びている。
「村で1番の戦士です……村を守るためにこんな傷を……ペドロおじさん……」
まずいな、今の俺の魔力では傷口を塞ぐ事で精一杯では無いだろうか……全員分下級回復術ヒール出来るだろうか…
「とりあえず傷口を塞ごう」
「えっ? どうやって……?」
「俺を傷口へかざしてくれ」
「こう……ですか?」
「後は俺がやろう」
みるみるうちに傷が塞がり、他の傷まで癒えて行く。顔色も良くなり、落ち着いた様子だ。
は? え? 何だ? これはただの下級回復呪文ヒールのはず。今の俺の力と素人である少女の魔力だと1回の下級回復呪文ヒールで全ての傷を癒すなど……治りが思ったよりずっと良い。
「す……凄い……これが本物の魔術……!」
「何が……起こったんだ……?」
リーザも医者も目をぱちくりしている。
やはり違和感がある、下級回復呪文ヒール位なら珍しいものでも無いだろう、それと魔術の威力もだ。
「少女よ。いやリーザ、他の人へも同じようにしてくれ」
「……! はい!」
俺とリーザは村の男たちを治療し、ひと段落着いた。
医者が事情を聞いてくる。
「リーザ。この力は? この杖は? これは……魔術……? どういう事か説明してくれないか?」
「えっあっえっと……」
あたふたしている、そりゃそうだよな。杖が喋って導いた、なんてヤバいやつだと思われるもんな。
「とりあえず誤魔化すんだ、後でちゃんと話すからって」
「あああえっとこれには深い訳がありまして、後でちゃんと話しますから!村のみんなには取り敢えず黙っておいて下さい~! ごめんなさい~!」
「ちょっ! リーザ!?」
リーザは俺を抱えて診療所から飛び出した。
「取り敢えず私の家へ行きましょう……」
「そうだな」
一軒家へ入る。
ここがリーザの家か……家族は……? 気配が無い。
「……家族は?」
「お母さんは病気で……お父さんは魔物に……」
「そうか、すまん……」
「いえ、もう慣れたので……」
悪い事を聞いてしまったな。
部屋に入る、事情を聞こう。
「回復術の威力が思ったより高くて驚いた、俺は……この杖は所持者によって術の威力が増加するんだ。リーザは魔術の心得があるのか?」
「いえ、無いです……多分……」
含みがある言い方だな。
「話を聞かせてくれないか?」
「笑いませんか……?」
「笑うわけないだろう。大丈夫だ。ゆっくりでいいから話してくれ」
「はい、私は小さい頃おばあちゃんが聞かせてくれた御伽噺、そこへ出てくる魔術師様へ憧れを抱き、小さい頃から魔術師になるのが夢だったんです。御伽噺に出てきた魔術師様、ゲイル・シルフィード様は魔王をはるか昔に討ち滅ぼしたって……だから……」
……ん? ゲイル・シルフィード? 俺と同じ名前の人物が主人公なのか?
はるか昔魔王を討ち滅ぼした?ん?
「ちょちょタンマ! 何? え? どういう事? 御伽噺? はるか昔? ゲイルって?」
「もしかしてその御伽話のゲイル様は風魔術を駆使して魔王と戦っていたりするか?」
「……? はい。1000年以上昔だとおばあちゃんは…」
んんん……?
杖になって飛ばして……はるか北……御伽話の主人公は俺と特徴が一致している……俺の……話か……? いやまさか……杖になってそんなに時間たってるって事か?
もしそうなら俺は最近覚醒したって事か?
あんな所に刺さったまんまで1000年以上も……?
杖になった事で他の魔力感知などの感覚が鋭くなったと思っていたが、1000年経っていたから無意識のうちに順応していただけか?
俺が生きていた頃にはそんな御伽噺聞いたこと無かったし、そういう事か……?
ていうか他の2人は?
つーかこの杖1000年以上経っても朽ち果てないのかよ。確かにめちゃくちゃ高性能だったし結局最後まで材質は分からんかったが…
「飲み込めてきた。違和感の正体はそれだ」
「違和感……ですか?」
「ああ、俺はどうやら1000年前の人間らしい。ゲイル・シルフィード、それは俺だ」
「えええええ?!?! ゲゲゲゲイル様?!?!? でもあんなこと出来るし嘘をつく意味もないし、ええええ?!?!?」
「いやまあ信じられないよな、俺も信じられない。でもそう仮定すると合点が行くんだ、今じゃ当時の魔力も殆ど失われたけどな。でも確か魔王に負けたはずなんだが……」
「ももももしかして杖に魂を宿した訳って……?」
「もしかしてだ、負けたから呪術で杖に意識を移した」
「そんな……でもこの世界に魔王なんて居ませんよ……? 相討ちになったんでしょうか?」
「確かに杖を飛ばした方向は分かったはずなのに追手も来かったしなぁ……でも確かに俺が事切れる寸前、魔王は勝ち名乗りを上げてたしなぁ……うーん……」
1000年経ってたとしてだ、魔術一つであんなにも驚かれてしまう事実はどうなんだろうか?田舎だからか?
医者もリーザも魔術を見たこと無ないような反応だったし……
「御伽噺って俺のだけか? 他に2つとか無いか? 魔王を討ち滅ぼした英雄的な御伽噺」
「……! そう言えばおばあちゃんが他の2つも聞かせてくれました! でも私はゲイル様の御伽噺に夢中だったので内容までは……」
「そうか!」
他の二人の御伽噺があるなんてもう確定じゃないか。
でも、少なくともあの二人の話も伝わっているらしい。よかった。
俺と似た境遇ってのも可能性は0じゃないな、1000年経ってるなら正直0に近いけど……
「そう言えば話の腰を折ったな。続きを聞かせてくれ」
「…あ! はい! 一応この時代にも魔術師は存在します。人間の内に魔力が存在するという事も確かです。私は魔術師になりたかったので独学で魔力操作を毎日練習していました。こう……おへその下に意識を集中して、温かいものを感じたらそれを身体中巡らせる感じで……それもおばあちゃんが教えてくれました。それ以上はどうしていいか分からず……でも、何かの間違いで奇跡的に魔術を学べるかもしれないので……」
「薬草探すの得意って言ってたよな? 魔力操作の訓練初めてからだろ?」
「え? はい。もしかして薬草って……?」
「極わずがだが魔力を帯びている。それを無意識に感知してたんだろうな。本当に微量だから相当訓練しないと感知できないんだぞ。相当頑張ったんだろうな。偉いよ」
「……………………」
ん?
「……………ぐすっ……………」
黙り込んだと思ったら突然泣き出してしまった。
「どどどどーした? なんか悪いことしたか? 大丈夫か?」
「ぐすっ……いえ、魔術師は幼少の頃から英才教育を受けないと成れないとされているので、村の同年代の子達からはバカにされてたんです……田舎の貧乏が魔術師なんてなれるわけないのにって……」
「この時代では魔術師はエリートか金持ちって事か」
この子は本当に沢山努力したんだろうな。
あの
「リーザは魔術師になれる。いや、もうなっている。あんなに怪我人を救ったじゃないか、魔術は人の為に使うんだ」
「ぐすっ………ぐすっ………ありがとう……ございます……でもあれはゲイル様の力ですし……」
「いや俺はただの喋れる魔術マニアの杖だ。俺の残りわずかな魔力では全員治癒する事は出来なかった。あの下級回復呪文ヒールの威力や全員分治癒できたのはリーザの修練の賜物だ。もし、望むなら俺がリーザを一流の魔術師にしてやる。無理にとは言わないが」
リーザは顔を上げて何か決心したような表情で言う。
「……! お願いします!!!」
とりあえず俺のやるべき事は決まった。
俺自身の魔力を取り戻す事。
リーザに一流の魔術師になってもらう事。
この時代を知る事。
リーザが言っていた「魔術師なんているわけない」というのも気になるし、フラムとレインの行方も、魔王の行方も気になる。
1000年以上……か……
まぁこれからゆっくりやって行こう。
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