杖に宿りし大魔導師の魂 ~手にするは心優しき少女~

@yorunoyobari

第1話 出会い

【強き人間よ…】


【まさか我をここまで追い詰めるとは…】


【だが、あと一歩足りなかったようだな】


【我等の勝利だ…!】










 あれからどれ程経ったのだろう。俺は負けた。いや、俺達は負けた。魔王に。


 フラムは?レインは?どうなった?…俺がこのザマなんだ…そうか…




 死ぬ寸前魔石に刻んだ術式輪廻転生リィンカーネーションを発動し、自分が持っていた杖に魂を宿したのだ。


 もしもの時の為に最高位の呪術師に頼んでおいて良かった。


 戦いで魔力を殆ど使い切ってしまった上、杖を最後の魔力で飛ばしたので意識と少々の魔力しか引き継げなかったが仕方ない。


 魔石は3人分それぞれ用意があったが…アイツら…無事だど良いが…




 ここはどこなのだろう…


 魔力感知と風の流れで周りを探る…杖になって目を失ったが、不思議と他の感覚が鋭くなっている事を感じる。


 木々が生い茂っている事、恐らく寒冷地である事、人の気配がない事。


 魔王と戦った荒野より遥か北に飛ばした事だけは分かる。


 しかし…魔王も俺がこの杖を飛ばした事に気づいているだろうか?俺の死体に武器がが無いことに違和感を持つに違いない、早く移動しないと。






 しばらく色々試したが、動けん…当たり前か。杖…だもんな。


 すると不意に森の奥から何か飛び出してきた。


「ギギギ…!」


 何だ?…ゴブリンの集団か?ゴブリンは地面に刺さる俺を見つけて嬉しそうに笑う。


 おいちょっと何すんだ俺をどこに持っていくんだ!?いや…好都合か?こいつ何だか上機嫌だな。


 念話出来るだろうがここはただの杖を装う事にした。人間の言葉は理解できんだろうしな。


 周り回って人間の手に渡ればいいのだが…こいつ達は何処へ向かっているのだろうか。


 ゴブリン達が嬉々として向かう所などだいたい予想はつくが…




 しばらくそのままゴブリン達は森を進む。


 ん?人間…か?ゴブリン達はまだ気付いていないだろうが…こいつ等が向かう先に人間がいる、このままではマズイな…。




 そうこう考えているウチに人間はゴブリン達によって発見される。


「ひっ…!」


 女の子だ、丸い眼鏡を掛けたいかにも大人しそうな女の子。歳は13~14歳という所か?年端も行かない少女だ。


 とても戦えそうにはないし、逃げる事も難しいんじゃないか…?なぜこんな所に…


「ギギギ…!!」


 ゴブリン達は女の子ににじり寄る。この距離なら…!


「おい」


「…!?」


 女の子はキョロキョロ戸惑っている。


「聞こえるんだな?そのまま聞いてくれ。細かい事情は後で話すが、助けてやろう」


 魔力は大して残っていないがゴブリン数匹位なら何とかなるだろう。


 風刃ウィンドカッター!!


 ゴブリン達が細切れになって崩れ落ちる。流石にゴブリン達には苦戦しないよな。正直不安だったが…


 この杖の本来の特性、所持者の魔力量によって術力を飛躍的に底上げする。


 俺自体が杖で、俺にも少しだが魔力がある。杖の特性と組み合わせれば術力は元々の特性以上に倍増するだろう。


 ゴブリンとはいえ多少の魔力はある。それを利用したのだ。


「おーい」


「!?!?」


 まぁそりゃあ戸惑うよな…あの子から見たら突然ゴブリンがバラバラになったんだもんな。


「信じられないとは思うが落ち着いて聞いてくれ。君に話しかけているのはゴブリンが持っていた杖だ」


「…え?どどどどういうことですか…?」


 明らかに狼狽えている、そりゃそうだよな。


「ここだここ。取って食ったりしないよ。」


 我ながら怪しい。


「えっあっ」


「ほら、ゴブリンの1匹が杖持ってただろ?」


「これ…ですか…?」


「そうそう、拾い上げてくれ」


 ゴブリンに持たれた時もそうだったが、なんか変な感じだな。


 女の子は半分べそをかきながら恐る恐る俺を手に取る。一応片手杖なのだが少し大きいか?


「はい…わっ!とても軽いです…それに不思議な材質…?」


「驚かせてすまなかった。訳あってこの杖に魂を宿している。ちなみに肉体はもう無い」


「本当に杖が喋ってる?!?!?」


「さっきから言ってるだろ?落とさないでくれよ。別に痛みは感じないが」


「何が起こっているのか…混乱していて…」


「俺が助けたんだよ。杖だけど。」


「あ…ありがとうございました…それで…何故杖が喋っているのでしょうか…?」


「さっきも言っただろ?元々人間だよ。訳あって魂を杖に宿している。いや、宿さざるを得なかったと言うべきか…」


「なるほど…世界は広いのですね…そんな方法があるとは…ビックリです」


「んまぁ細かい事は気にすんな」


「そんなものですか…?」


「そんなもんだ。ところでこんな場所で何してたんだ?」


「あっえっと。村の戦士たちが怪我をしてしまいまして、薬草を探しに来ていました。村からはそこまで遠くないのですが、魔物に見つかってしまうとは…」


「護衛は?男手は?」


「村の防衛で皆さん怪我してしまっていて…私が1番動けたのと、薬草探しは得意ですので…」


「それで魔物に見つかってりゃ世話ないな。村は今襲撃でも受けているのか?」


「すみません…実は魔物達の動きが最近活発化しているのと、数も増えていて、村が度々襲撃に遭っているのです」


「そうか。なるほど。村に魔術師は?」


「魔術師なんていません…いるわけないですよ」


「いるわけ…ない?」


「え?はい。」


 どういう事だ…?いる訳が無い?どんな田舎でも魔術師自体はそこまで珍くないだろうに。


 この子はあくまで当然の様に言っている、何かおかしい。


「とりあえず移動しないか?薬草は集まったのか?」


「少し足りません…」


 今の俺の魔力でどれだけ回復魔術が使えるか分からんが、何とかしてやれるかもしれない。


 ここであったのも何かの縁だ。自分じゃ動けないし、魔術師についても色々聞かなきゃならんしな。


「俺を怪我人のところまで持って行ってくれないか?何とかしてやれるかもしれん」


「…本当ですか…?」


 流石に警戒している。


「今すぐには信用できないと思うが、君に敵意は無い。ゴブリンにはたまたま拾われてしまったんだ、人間の手に渡る事を祈っていたのだが、君に拾われて本当に良かったと思っている」


「助けて頂いたのは事実ですし…分かりました、村へ行きましょう」


 俺を持つ手はまだ震えている。ゴブリンは怖かっただろうし、まだ俺のことも怖いのだろう。


「恩に切る」


 そう言ってこの子と一緒に村へ向かうのだった。

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