第12話 夕焼色の心


 スケアクロウに毎日会いに来てくれる人はもういない。

 スケアクロウの話を街でしていたあの子はもういない。



 月日が経つにつれて、スケアクロウに話しかける人はまた少なくなっていった。


 小さな女の子がスケアクロウに話しかけるのを見て同じようにしていた街の大人たちも、長すぎる時間をかけていなくなった。


 スケアクロウの名前は呼ばれなくなっていった。


 スケアクロウは前より、ずっとずっと前、この国に来たときよりも寂しくなった。



 スケアクロウは思った。お嬢さんが幸せに暮らしてくれているのなら、それで嬉しいと思った。


 だけどいつか、夕焼け色の髪を揺らして、お嬢さんが会いに来てくれたなら。その時には今度こそ、今度こそ伝えるからと強く願った。


 自分は君に恋をしていると。

 自分が今恋をしているのは君なんだと。

 スケアクロウは、あの大きな瞳を見ながら伝えたかった。


 そうやって、スケアクロウは立ち続けた。


 時間は流れる。

 スケアクロウが気づかないうちに。



 子供たちの笑い声が聞こえる。

 どこからか焼きたてのパンが香る。

 並ぶ屋根はまるで色鉛筆を入れた箱の中。


 今日も街は賑やかだ。


 だけど今ではもう、待ちぼうけのカカシの名前なんて誰も知らない。




 ただ、それでも。

 そんな悲しい彼のことを、彼方に溶けてゆく夕焼けだけが、寄り添うように照らしていた。

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誰も知らないカカシの名前 藤咲 沙久 @saku_fujisaki

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