結論なき結論
意識が現在に帰って来た。
高崎先生は、変わらずそこに居た。ただ、言葉に窮しているらしい事は、一目で分かった。
前例の無い事に直面した時、人は立ち尽くすしか出来ない。
僕の方はと言えば、今、呼び覚まされた分の事は思い出していた。と言うよりは、再度、認知し直したと言うべきか。
本来なら、このまま全てのピースが揃うまで記憶を拾い集める方が良いのだろうが……。
「洲原さん。少し、時間をください。あなたの記憶は、どうも一気に呼び戻すのは危険なようだ」
本来は、戦争等による人的外傷からの記憶喪失を解決するやり方である。
僕のように、思い出す記憶の全てが毒物まみれでは、先生も迂闊に触れないと言った所だろう。
いきなり全てを思い出すのがリスキーである事は、元より知れていた。
僕は依然、人生の大部分を忘れたまま。
けれど、僕と言う人間の本分は思い出せたと思う。
「僕が実家に居ると、洲原家は機能しなくなった。だから、僕をあの家から切り離すしか無かった。そこには、肉親の縁すらも通用しない、強力な摂理があったと思います。
先生。自然体で居る程、人に迷惑をかける定形外の人間に、存在理由はあるのでしょうか」
僕の問いを受けた高崎先生は、一度唇を舐めて――結局、何も答えられなかった。
毒食グルメ 聖竜の介 @7ryu7
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