六日目。

 熱が出た。

 どうやら、ここ数日の不調および幻覚は熱の予兆だったらしい。そのせいで腹が削れて変形してしまうまで風呂の中用のブラシでこすってしまった。そういう事だったんだろう。


「体が重い……。」


クソババアが出ていってから何も食べていない。もう三日目だろうか。

小さい頃に熱を出した時に食べたお粥を思い出しつつ、炊飯器に米と水を適当に入れる。

細かい設定など分からないから「スタート」のボタンを押し、蛾が来ないことを無駄に警戒して時間を過ごす。

結局蛾が来る前に飯も炊き上がった。でも、いつも食っているのとは違うパサパサのなにかだ。控えめに言って不味い。食いもんじゃない。




捨ててしまおうと思い、キッチンの流しの方へ歩き出したその時、口の中で米が動いた。

嘘だろ。そんなはずは無い。

さっきまで米だったんだ。この粉っぽい食感は……

また幻覚かよ。ふざけんな。

ふと視線をあげると、廊下の先にこの前のデカい蛾がいるのが見える。口の中での羽ばたきが大きくなる。


「ゲホッ。」


咳き込むと、米だった物は案の定全て蛾になっていた。バタバタと大きな蛾の周りを飛び回り、大きな蛾も羽ばたき始める。


「く、来るな。お前は幻覚、そうだろ?幻覚なんだろ!?」


後ずさりしながら蛾から逃げる。

巨大蛾が、俺スレスレを飛んでまたも窓を突き破って外にとて言った。


「ほらな!幻覚っ!?」


振り返ると、さっきと同じところにまた奴がいる。1歩後ろに下がると、また蛾を踏みつけた。

さらに体中がかゆくなってきて、 昨日のような腹だけではなく、腕からも足からも蛾が生えているのがわかる。


「やめろ、辞めてくれ!」

体の内側をゆっくりと蛾に齧られていく感覚がある。なのに、痛くない。痒いのだ。

体全部を蛾に食われているはずなのに、痛くない。痒い。痒い痒い痒い痒い。

再び目線をあげると、そこはもう家じゃなかった。

真っ暗闇の中、前も後ろも、右も左も、真上はもちろん真下も、体の中まで蛾に覆われている。


目を瞑ってがむしゃらに走る。死ぬ気で走る。

ドンッ!

腰あたりに鈍い痛みがしたかと思うと、次に浮遊感が襲ってきた。

目を開けると、すぐ前には地面が迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蛾が。 怪物mercury @mercury0614

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ