五日目。
夜に変なものを見ちまったせいで全然眠れずに朝を迎えた。
冷静に考えてみれば、ここ数日はほとんど寝ていないのかもしれない。いや、数日っていつからだ?
「どうせ今日もでかい蛾がいるんだろ……。」
もともと寝不足に弱い体質だから、ここ数日の寝不足が幻覚でも見せてきているのだろう。それも、特別悪趣味な。
来るなら来いよ大きい蛾。今度はなんだ。今にぎっしり詰まっているのか?それとも俺を食おうとして大口を開けているのか?
とにかく腹が減っていた俺は、やけくそで部屋の中に進む。
部屋の中には……蛾はいない。割れたはずの窓も元通りになっている。
ってことは冷蔵庫の中か?開ける……いない。
「ふぅーっ。」
大きくため息をついて、その場にへたり込む。どうやらあれは、単なる幻覚だったようだ。まったくもって人騒がせな。
安心からか、そういえばここ数日着替えていなかったことに気が付く。
「よいしょっと。」
シャツを脱いで、服を脱ぎ捨てると、手に粉のようなものが付いた。
「なんだ……?」
嫌な予感がとてもする。下を見るな。下を見てはいけない。
「ひいっ!」
最初は、シャツの裏に蛾が付いていたのかと思っていたが、それすら生ぬるい。腹から、蛾が生えていたのだ。まだ、羽も出ていないような蛾だが、一瞬でそれとわかる、気持ち悪い胎動と感触がある。
俺は風呂に駆け込んだ。
「落ちろ、落ちろよ……。」
必死に腹をこするが、皮膚の中でうごめいている蛾は一向に落ちる気配がない。
「落ちろ……落ちろ……落ちろ……。」
こすってもこすっても、こすってもこすっても、やがて腹から血が出てきても、いまだに落ちる気配がない。
どれだけ洗い、どれだけの血を流しただろうか。
痛みも感じなくなったころ、ようやく腹の中から蛾が一匹だけぽろっと落ちた。
バタバタと暴れている蛾に慌ててシャワーをかけ、そのまま流しきる。
真っ赤に染まった風呂場では、シャワーの音だけが流れ続けていた。
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