四日目。

 ババアがいなくなったのと、蛾の感触を忘れられなかったせいでなかなか寝られず、徹夜のまま朝を迎えた。


「あー、全然ねられねえっての。飯ぐらい作れよな。」


 頭が痛いが、今はそれどころではない。


「朝飯朝飯……。」


 のそのそとキッチンへ行き、寝ぼけ眼をこすって冷蔵庫を開ける。

 なんも入っていないじゃねえか。あのババア、買い物一つ満足にできねぇのか。


「どっかに金とかねえかな……。」


 たんすの中をはじめとして、いろいろなところを探すが、金なんて一円も落ちていない。自費で飯を食わせるつもりか。そういうのを、育児放棄っていうんだぞクソババア。

 しかたない。もう一回冷蔵庫の中を確認しようじゃねえか。


「ひっ……!」


 開けたとたん、思わず腰を抜かした。

 冷蔵庫の中に、ちょうど入るぐらいのサイズの蛾が入っていたのだ。サイズ的には俺が両腕で抱えて、やっと持てるぐらいの大きさ。

 もはや、毛の一本一本や、すべてを飲み込むように真っ暗な目、気持ち悪い触覚の全てがくっきりと見える。

 慌てて冷蔵庫のドアを叩きつけるように閉め、納戸からガムテープを持ってきて、冷蔵庫をぐるぐる巻きにした。


「はぁ……はぁ……。」


 なんだこいつは。こんなでかい種類なんて、聞いたこともない。冷蔵庫の中からは、逃げようとしているのか、蛾が羽ばたくとき特有のバタバタという音が聞こえてくる。


「ひ、ひぃ……。」


 頭を抱えてうずくまる。早く止まれ、止まってくれ……。






 どれぐらいの時間そうしていたのだろうか。もはや空腹も何もすべて忘れ、うずくまっていた俺は、音が消えていることに気が付いた。


「死んだ……か?死んだよな、そうだよな、何なら冷凍保存して学会とかに売れば高くなるかもしれねえな。そうしてやろう。」


 まだドキドキとはするが、ガムテープをそっとはがしていき、ドアが開くようにする。

 恐る恐る中を開けると……。


「嘘だろ、おい。」


 さっきよりもさらに一回り大きくなった蛾が、動けずに冷蔵庫の中にみっちり詰まっていた。

 俺の声に反応したのか、ぎょろっとすべての複眼に俺が映し出される。


「ひ、ひっ……。」


 俺が後ずさると、蛾は冷蔵庫から飛びだし、そのまま居間の窓を突き破って夜空へと逃げていってしまった。 

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