最終話 記載者『葉宮樹理』

 あれからのことを、ここに記そうと思う――。

 明吉くんは全てを見て、知っているのだろうけど、やっぱり、私の心情も書いておきたいし。


 それに、私の愛も一緒に書いておきたいし。

 この前だって、明吉くんのことを考え過ぎて、色々とや――(省略)。


 ――とまあ、こんな感じ。

 って、あ――。明吉くんへの愛の言葉で、いつの間にか、ページをたくさん使ってしまった。

 明吉くんが部室に残してくれたノートだったのに。日記帳だったのに! 


 勝手に使ってごめんね、明吉くん。

 でも、気持ちを共有したいというか、一緒に作りたかったというか……。

 運命共同体みたいにしたかったの! 駄目なら駄目って言って! すぐにやめるから!


 ……ふう。それじゃあ、本題に入ろうと思う。


 あれから、混ざった人間界と霊界は、元の場所に分離して、区切られた。

 全て元通り――とは、さすがにいかなかったけど。


 建物とか、人とか。破壊されたものは、戻らなかったらしくてね。ニュースにもなってたよ。


 神様でも、壊れたものを元に戻すことはできなかったんだね。

 それとも、できるけど、しなかった――とか? そっちのルールで縛られているのかな? なんにせよ、明吉くんは悪くないよ。仕方のないことだしね。 


 人間界では、変わらず、私の姿は特定の人以外には、見えていないよ。

 だから、見えている子もいるの。


 ――和実ちゃん。彼女は、私のことが見えているらしくて、たまに、声をかけてくれる。

 それにあの子、よく笑うようになった――、前よりもさらにね。

 すごく、毎日が楽しそうなんだよ。茜ちゃんとも、よく笑い合っているし。


 最近では茜ちゃんよりも明るくなって、ノリツッコミとかもするようになった。


 見ている分には、面白いよ、すごく。

 あ、今度、ビデオにでも撮っておこうかな。


 私、幽霊だから、たぶんばれずに撮れると思うし。

 でも、和実ちゃんには私、見られてるからなあ……。

 案外、難しいかもしれないね。でも、頑張るよ!


 あと、たまにだけど、茜ちゃんに私の気配を勘付かれているようで、恐い思いをすることが多くなった。このままじゃ、見つかる日も近いんじゃないかな? 

 今度、和実ちゃんに相談でもしてみよう。頼れる人、和実ちゃんくらいしかいないし。


 それじゃあ――遊ちゃん。

 遊ちゃんは大怪我をしていたけど、入院はしなくて済んだらしい。

 遊ちゃんも、重荷が取れた感じで、毎日が楽しそうだった。


 よく、「主様」とか遊ちゃんが言うんだけど、『主様』の関係性って、少し危ないと思わない? いや、それがなにかは言わないよ? なんだか、危ないお店に通っているんじゃないかって思えて――。……駄目だよ、明吉くん。

 勝手に人のプライベート覗いたら駄目だからね! まったく、もう――。


 あと、一陣くんが遊戯部に入ってくれたんだ。

 もちろん、遊ちゃんの勧誘が成功した結果だってさ。あんなに嫌がってたのに、一陣くん、今じゃ部の中で一番、部活動をしたい人になってるよ。

 まあ、一番、真面目だし。

 彼の不良への道は遠そうだよね。頑張れ、って応援したくなるくらい。


 そんなわけで、今はすごく楽しいです。

 明吉くんがいれば、もっともっと楽しいと思うんだけど――無理を言っちゃったかな? 

 でも、期待はしているよ。いつまでも、この部室で待っているからね。


 …………。


 …………。


 明吉くん……。



 もっと、話したいよ。

 ずっと、話していたいよ。


 一緒に、いたかったよ。


 一緒に。

 一緒に――。



「……ぅ、っ、うぅううう」


 私は、涙を拭う。

 けれど、涙はぽたぽたと流れて、落ちてしまい、ノートを濡らしてしまう。


「――あ、明吉くんの、ノートが……」


 すぐにタオルで拭くけど、水分で滲んでしまったページは、元には戻らない。


 追加で滲んでいくページ。私は、涙を抑え切れなかった。


「泣かない、って、決めたのに……」


 明吉くんがいつ戻ってきてもいいように。

 いつ、見てもいいように。ずっと、笑顔でいようって、決めたのに。


「……ぁ、あぁぁああああ」


 声は止まらない。感情が止まらない。

 会いたいと、全身から流れ出ていく感情。


 その場で崩れ落ちてしまいそうだった。

 机に、顔を突っ伏したい気分だった。


 もう、がまんしなくてもいいのかもしれない――。


 思って、顔を伏せようとした時。

 


 こん、こん、とノック音がした。


 

 ――ん?


 和実ちゃん? 茜ちゃん? 遊ちゃん? 一陣くん?


 いや、みんなはもう帰ったはず。ここに来る用事はないはずなのだ。


 なら――誰だろう?


 私は、目を赤く腫れ上がらせながらも、しかし、扉に向かう。


 自分は、幽霊だということを忘れて。

 相手には、恐らくは見ていないだろうことも忘れて。


 けれど、それでも私は、扉に手をかける。横にスライドさせ、開ける。



 そこにいたのは――。



 私はその時、泣きながら――、笑っていたことだろう。

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学園遊戯部:神隠しの章 渡貫とゐち @josho

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