第18話 エピローグ
「それで、一体どうやって大陸まで行く気なんだ?近くの島ですら約五十kmは離れてるしローゼンクロイツがあるウィスタリア大陸に至っては七十kmも離れてるんだろ」
あれから更に一週間後。無事傷も癒えたということでファウスト、プニ、リア、ベル、ベルゾレフの五人は三人?分の旅に必要な荷物を携えてファウストが最初に流れ着いた砂浜である【黒光りビーチ】に集まっていた。
今日、いよいよこの島を発つのだ。
「まぁ、そう急くな。我が用意した足はこれじゃ」
ベルはそう言って虚空に手を突っ込んで
それはベルの小さな手から少しはみ出す程度の大きさで、直径二cm程の正四角形が組み合わさって構成されていた。地球の物品で例えるならばルービックキューブと言ったところか。
「これは【ノアの箱舟】という霊装でな。今からおよそ1000年前にこの世界に漂流してきた異世界人、
「はいそこまで。ベルさん説明長いから簡潔に言うとだね。これを使えば大陸まで一瞬で行けるってことだよ」
意気揚々と説明をしていたところを遮られてムッと頬を膨らますベルに「ホントベルさんは説明好きだな〜HAHAHA!」と真っ白な歯を煌めかせながら頭をポンポンと叩くベルゾレフだがその手はすぐに手で払われていた。
そしてそのベルゾレフの簡潔な説明にファウストの肩に乗るスライム形態のプニが補足した。
『と言っても原理としてはぼくたちが移動するんじゃなくてぼくたち以外の宇宙とかそこにある星々とかの世界の内包物の方を移動させるって感じだからとっても大雑把にしか移動できないけどね』
その補足に植物の模様が入った腕輪形態のリアは驚いたようなあきれたような声色で返す。
『それはなんとも世界に迷惑な霊装だな。使い方を変えれば連続使用するだけで世界をぐちゃぐちゃにして崩壊させることも可能だぞ』
「え、そんな物騒な代物使って本当に大丈夫なのかよ」
「単発使用なら世界の修正力でなんとかなるから問題ない。……少々全世界の生物が酔うだけじゃ」
(最後らへん目を泳がせてボソボソ言ってたのが気になるが……)
目線を逸らすベルにじとーっとした視線を送るが、『まぁ気にしてもしょうがないか』と半ば遣り投げな気持ちで流した。
「さて、気を取り直して早速行くぞ!」
「気をつけて行ってくるんだよ」
なんだかんだ緩い別れとなっているが、これで彼等と会うことは暫くなくなる。正真正銘別れの時なのだ。しかし、今生の別れでもない。
だから、彼はまるで学生寮に移る学生のような面持ちで……
「はい。今までお世話になりました。貴方を越えられるようになった日に、また会いましょう」
「ああ、その日が来るのを楽しみに待ってるよ」
そう、最後にこれまでのお礼と一時の別れを告げて、一行は大陸へと移動した。
「行ったのかい」
ファウストの幸運を祈りながら海を眺めていると、後ろから嗄れた老婆の声が聞こえた。
「あー、気持ち悪」と霊装の影響で少し酔った白衣の老婆は目つきを悪くしながらベルゾレフの横に並んで海を眺めた。
白衣を纏ったこの老婆はガチムチアイランドに流れ着いたファウストの治療をしてくれたあの老婆だった。
「あの子の親のこと……言わなくて良かったのかい?」
海を眺めながら、老婆は珍しく静かなこのガチムチアイランドの海のような声でそう告げた。
「親のことって……君は彼の親が誰か知っているのかい?」
「…………はあ゛?」
老婆はベルゾレフのあまりの馬鹿さ加減というか鈍さについ柄の悪い声を出してしまう。
「じゃあ何さね。お前達二人揃って十年もの間気づかなかったってのかい。あぁ、馬鹿な筋肉野郎とはた迷惑な鬼ガキのせいで頭が痛いわ」
眉間に皺を寄せ、頭痛のする頭を抑えて老婆は続ける。
「あの子の姓を思い出してみな」
「あの子の姓っていうと……レガリア?あっ、リアちゃんの名前と一緒だね!HAHAHA!」
ドゴンッッと凄まじい音を響かせる肘鉄を脇腹に喰らったベルゾレフは流石に堪えたのか呻いている。
「HA……HA、ジョ、ジョークだよ……」
「ったく。……そんなのはどうでもいいんだよ!そうじゃなくてわたしが言いたいのはだね、あの子の姓がかの
その言葉に流石に驚いたのかベルゾレフは目を剥いた。
「……ということは彼は王族の子供だったのかい?」
「そういうことになるね。随分前にその王家からも全世界に向けて捜索願が出されていたし可能性は高い。大方賊に攫われてその最中に時空断層にでも巻き込まれたんだろう」
「そっか……確かにそれなら辻褄は合うね。となると、リアちゃんと名前が被っていたのもかの王族の始祖がレガリアの所持者で、そこから改名したからか。
まぁでも、それならそのうち向こうから見つけて接触してくるだろうしいいんじゃない?」
「確かにそうだけどアンタが知らせてないせいであの子が王家の名を騙る悪党だと思われるかもしれないってわたしゃ言ってんの」
「あ」
漸く事の大変さを理解したのかベルゾレフは急いで遠くと連絡できる地球でいう携帯電話の役割を成すスマホ型の『魔導無線機』という魔道具を取り出してベルに連絡を入れた。
「はぁ、ホントこのバカは……」
こっちは王家へ連絡しようかねと内心独り言ちた老婆は自宅へ帰りながら
◇
時は少し遡り、ウィスタリア大陸南西部、【レルム】という街の近郊にベル達一行の姿があった。
そこは【レルム】に続く街道で、【レルム】方面を向いている一行の右手には木漏れ日が差し込む麗らかな林が広がっており、時折小動物の姿も見える。勿論ガチムチアイランドのように筋肉達磨なマッチョマン体型ではなく極々普通の地球とほぼ同じ容姿の小動物達だ。そして左手には何もない。いや、正確には遥か下には森が見えるのだが……。どうやらここは崖沿いの道だったようだ。
そんな崖沿いの街道に運良く転移できた一行はベルに別れを告げていた。
「今まで世話になったな」
「うむ。じゃがこれで終わりではないからの。弟子たるもの師を越えるまで独り立ちとは認めん!」
『意訳すると“寂しいからいつでも会いに来て良いし、独り立ちなんて絶対させないもん!”だね!』
『はっはっは。素直じゃないなベル〜』
「なっ!か、勝手に捏造するでない。別に我はそんなこと一切思うておらんわ!」
プニはスライム形態、リアは植物を象った腕輪形態と、表情は二人揃って人型ではないので分からないが、ニヤニヤとした声とでも形容できる声色で揶揄ってくる二人に顔を紅潮させて反論するベルだが、その顔色を見る限りではどうやら図星だったようだ。
『そんなこと言って〜ホントは御主人と離れたくなーー』と言った所でプルルルルという携帯電話のコール音がプニの言葉を遮った。
これ幸いとばかりにベルは「ちょっと出てくる」と言って少し離れた所でバイブレーションしている魔導無線機を取り出した。画面を見るに相手はベルゾレフのようだ。通話と記された表示をタッチして通話に出た。
ベルの通話を待っている間暇なファウスト達は取り敢えず辺りを見回して見ていた。
しかしゆっくりと眺めることはできなかった。
「なんじゃと!」と突然ベルが大きな声で叫んだからだ。そちらに注意がいって見ていると、ベルはなんだか驚きながらあきれているといった器用な表情で通話していた。おそらく前者は通話内容。後者は自身に対してだ。
少しして、通話を終えたベルはこちらへ戻ってきて開口一番こう告げた。
「どうやらぬしは行方不明だった
「だ、第二王子ッッッ!??」
【読み切り版】Faust〜どうやら異世界に転生しても俺は不運に愛されているらしい〜 ラウ @wako-bird
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