第3話 フレンチトースト
ピピピピッピピピピッ
スマートフォンのアラームが鳴る。
男がむくりと体を起こす。
5月中旬の朝。寒くも暑くもなく寝覚めには気持ち良い気温だ。
軽く伸びをした男は、
「……」
呆けた顔で虚空を見つめる。
先日まで五月病だった男も今では大分マシになっている。それでも朝一番はまだシャキッとしない。
「何か食べてアタマ回そう…」
そう言って男は台所へと向かう。
冷蔵庫を開くと食材が少ないことが分かる。
弁当用に作り置きしていた料理の他は食パンと卵、そして牛乳しかない。
「これで何を作るって言うんだよ…」
男は溜息をつく。しかし、
「いや、あるじゃないか。作れるものが」
と、男は冷蔵庫を閉め、横の棚を覗き込む。
砂糖とサラダ油がある。男は、良しと頷き、朝食の下準備を始める。
【フレンチトースト】
・食パン
・卵
・牛乳
・砂糖
・サラダ油 ※バターがあれば尚良し
カフェやファミリーレストラン等で提供されるフレンチトースト、実は作り方は至って単純である。
卵液を作り、食パンを浸して、焼く。この3ステップだけだ。
まず、卵液を作るところから始める。
卵液に使う食材の量は、卵1つ、牛乳はマグカップ1杯(200ccほど)、砂糖200gほどだ。蜂蜜やメープルシロップなどが無いため、今回は甘めに作る。
卵をボウルに割り入れてしっかりと解き、その他の食材を入れて混ぜる。これで卵液は出来上がりだ。
次にパンを浸す。
小さめのバット等、浅い容器に卵液を広げる。
4枚切りの食パン1枚をを半分に切り、卵液に浸す。
浸す時間は個人の好みだが、男はいつも片面で10分、裏返してもう5分浸す。
その間に歯磨き、髭剃り、洗顔などを済ませる。
後は焼くだけだ。
フライパンに油を敷き、弱火で先程の食パンを片面で6分焼く。余った卵液も食パンにかけて一緒に熱する。
裏返して更に4分。今度は蓋をして蒸し焼きにする形だ。
その間に湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
焼き上がったフレンチトーストを皿に盛り付けて、完成だ。
コーヒーとフレンチトーストを食卓に並べる。
湯気の上がるコーヒーを眺めながら一口飲む。
「フーフー…熱っ…フーフー…んぐ…」
猫舌の気がある男はコーヒーをよく冷まして飲んだ。
先日飲んだコーヒーよりも苦味が強い。目が覚める苦さだ。呆っとしている男にはちょうど良い。
今度はフレンチトーストだ。ナイフとフォークで丁寧に切って食べる。
「カリッ…むぐ…むぐ…んぐん…」
じっくり焼いたおかげか表面が少しサクサクしている。その割に中はフワリとしつつもプルプルとしており、パンプディングのような舌触りだ。
また、少し砂糖を多めに使ったためか甘味が強い。蜂蜜やメープルシロップが無くとも十分な甘さである。
男はもう一度コーヒーを飲む。
「フーフー…んぐ…」
舌の上に残った甘味がコーヒーの苦味と合わさって程よい味わいだ。
やはり砂糖を多めに入れて正解であった。
男はニンマリとしながらもう一口頬張った。
食後、スーツを着ながら男はこの日の仕事の段取りを考えていた。
「あの資料を作って…あの案件は確認を取って…」
ブツブツと呟きながら男は家を出る。
この日、男が弁当を用意し忘れたことに気付くのは昼時になってからであった。
週初めの朝食 飯炊きおじさん @meshitaki
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