第2話 塩鮭

ピピピピッピピピピッ

スマートフォンのアラームが鳴る。

男がむくりと体を起こす。

5月上旬、ゴールデンウィークの月曜日の朝。なんとも心地良い気温。


アラームを止めた男は、一日の間に伸びた髭をジョリジョリと触りながら洗面台へと移動する。

歯を磨き、髭を剃り、軽く顔を洗う。


目が覚めた男は台所に向かい、何を食べようかと冷蔵庫を開ける。

チルド棚に昨日スーパーで買ってきた塩鮭がある。


「…どうせ出掛ける予定のない休みの日だ。のんびりと和定食でも食べようか」

男はぼそりと呟いて塩鮭を取り出す。

昨日炊いて冷凍しておいた白米も取り出す。


「あとは味噌汁と…もう一つ欲しいところだな」

と、男は再び冷蔵庫を物色する。

いくつか作り置きしてある惣菜があるが、男が選んだのは、こちらも昨日スーパーで買った沢庵だ。

「朝だし、こんなもんで良いな」


そして男は棚からインスタントの味噌汁の素と緑茶を取り出し、調理にかかる。



グリルを5分ほど予熱にかけ、塩鮭を片面4分、ひっくり返してもう片面を3分ほど焼く。

その間、白米を解凍するため電子レンジにかけ、湯を沸かす。

沢庵を好きな厚さに切り、小皿に盛り付ける。

椀に味噌汁の素を入れ、沸かした湯を注ぐ。残りの湯は熱いうちに緑茶を淹れるのに使う。

白米と塩鮭も仕上がったら椀や更に盛り付ける。

それぞれの皿や椀、湯呑と緑茶が入った急須を食卓に並べる。


まずは緑茶から飲む。

「ずずっ…んぐ…ほぅ…」

甘味と旨味は程々で、苦味と渋味が強い。緑茶、特に煎茶を淹れる適温は70度ほどで、それ以上の温度だと苦味や渋味が出てくる。しかし、男は塩気のある朝食にまろやかな味わいは合わないと考え、敢えて高い温度のまま淹れたらしい。


続いて和定食を、味噌汁、鮭、白米の順で食べる。

「ずずる……あむ……はぐ…はぐ…んぐん…」

最近のインスタント味噌汁は旨いものである。

フリーズドライ製法で、小さく収まっているのに湯をかけると具だくさんで結構食べでがある。男はこの味噌汁が好きであった。

鮭の塩気は少し薄めか、しかし朝食ともなるとこの程度で良いかもしれない。

白米も解凍したものとはいえ、しっかりと鮭の塩気を受け止めている。


今度は沢庵を頬張り、緑茶で流し込む。

「カリッ…パリ…パリ……ずずっ…んぐん…」

沢庵の歯応えが良い。それを噛めば噛むほど塩気が滲み出てくる。

それを緑茶で流し込み、口の中をリセットさせる。

そして再び味噌汁を食べ、以降ループするように食べ進める。



食後、急須に緑茶を淹れ直し、もう一度啜る。

予定の無い休日の月曜日。何をしようか、と思案して窓の外を眺める。

「…天気が良いし、適当にウォーキングでもしてくるか。何か面白いもの見つかるだろ」

男はさっとシャワーを浴びてから、財布とスマートフォンだけ持って出掛けた。

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