神様の失敗作

隅田 天美

三人ぼっち

 子供の頃か、虐めや虐待にあった。

 それが当然だった。

 誰かが言った。

「お前は、神様の失敗作だ」

 なるほど。

 何でも理屈で考え、計算ずくで物事を考える。

 愛も情も唾棄すべきものだと思う。

 可愛くない。

 賢くもない。

 うん、嫌われてしょうがない。

 だから、私は旅に出た。

 何処かにいる私という失敗作を作った神様に会って「どうして、作ったの?」と聞きたいから。

 誰に何も言わずブラブラ出た。


 どれほど歩いたか。

 私はバスの停車場にあるベンチで休んでいた。

 いったい、ここはどこだろう?

 どれぐらい、歩いたんだろう?

 山に青空がよく映える。

 思わず、スマートフォンを出した写真を撮った。

 と、思う。

――これを見せても喜ぶ人なんていない

 胸のあたりが少し痛い。

 大丈夫。

 こんなの慣れている。

「よう、独りぼっち」

 いつの間にか目の前に誰かが立っていた。

 知らない人だ。

 でも、知っている。

 会ったことは無い。

 なのに、誰よりも知っている。

 なのに、言葉に出来ない。

「お前、こんなところにいてどうする?」

「『神様』に会う」

「神様?」

「『お前は神様の失敗作だ』と言われた。唯一無二の神様だったら失敗作なんて作らない。何で失敗作を作ったか知りたい」

「……」

 太陽の逆光で鼻から先は陰で見えない。

「あのさ、お前。暇なら、その『神様』のところまで少し持ってほしいものがあるんだ」

「? まあ、神様のいる場所が分かるのならいいけど……」

「見つけた!」

 その声に私は驚いた。

 知らない人は、入れ替わるように担任の先生になっていた。

「先生!?」

「ようやく、見つけた……」

 先生は本当に疲れたように横に座った。

「先生、私は神様のところへ行かないといけないから……」

「行ってどうする?」

「何でこんな失敗作を作ったか教えてもらって

「そっかぁ、壊してもらうかぁ」

 意外なことに先生は怒らなかった。

 悲しまなかった。

「じゃあ、帰ろうか」

 先生の手が触れそうになった時、何かが反応してバチッと光った。

 静電気じゃない。

「頑固者め……こりゃ、骨を折るぞ」

「だから、私は……」

「断る」

 私の意見を先生は否定した。

「お前がない世界なんてつまらん」

 再び先生の手が近づく。

 電気はどんどん激しくなる。

「やめてください……やめて……やめろ‼」

 私は、すべて捨ててきた。

 自分は異端者として幸も不幸も捨ててただただ、見捨てられないように、何もない自分が生きられるようにすることが私の処世術だった。

 そんな自分が嫌いだった。

 自ら勇気もないから、こんな『失敗作』を作った『神様』に壊してもらいたかった。

 なのに、この教師は、この男は……なぜ、ここまでする?

「よう、神様の作った最高傑作」

 私の頭に焼き焦げた手のひらが置かれた。

 頬に異物感が流れた。

「お前はお前のままでいい。名画や名作は後々になって、その価値に気が付く。お前の心はゆっくり治していけばいい。丈夫になるぜ」

 と、コツンッと小さく拳が置かれた。

「まあ、お前のことだ。些細なことで傷ついたり思い悩むだろう。たまには自分の心配もしろ。前に言っただろ? 『お前は俺の知らない場所に行くな』」

 と、砂煙を上げながらバスが止まった。

「もうちょっと遠くなら俺は怒っていたぜ」

「ああ、先生も隅田もいましたか?」

 バスから出てきたのは副担任だ。

「……」

「帰ろう」

 私は頷いた。


 だが、三十分以上バスは来ない。

 担任の先生は珍しく私の肩を枕に寝てしまった。

 私は副担任の先生に、それまでのことを話した。

「気持ちはわかるよ」

 副担任の先生は腕を組んで頷いた。

「確かに、独りぼっちだとこの世界は辛いかもしれない」

 と、ふっと笑った。

「二人でも辛いかもしれない。でも、三人ぼっちならどうだ?」

「……」

「お前は自分のことを『神様の失敗作』だと言った……その神様とやらは何教の神様だい?」

「それは……」

「十二月二十四日にチキン食って正月に神社行って葬式は寺でする……そこに宗教なんてあるかね?」

「……でも、だって……」

「俺は神様がいたら言うね。『こんな最高傑作に会わせてくれて、ありがとうございます』」

 また、泣きそうになる。

 

 出来損ないの失敗作でも捨てきれない素敵なものであふれかえるだろう。


 バスが来た。

「先生、バス来ましたよ」

「……うん?」

 バスに乗り込み一番後ろの後部座席に乗る。

 先生は、再び寝た。

「そういえば、先生。結構いい写真撮れたんですよ」

 副担の先生に私のとった風景写真を見せる。

「おお、いいな」

 たわいない会話が楽しい。

 と、耳にこんなアナウンスが聞こえた。

――天国発現世行、発車します

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様の失敗作 隅田 天美 @sumida-amami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ