和歌山県独立じゃなくて改名案検討?
彩理
第1話 大学生は立ち上がる
「なあ、佐賀が独立するって本気だと思うか? エイプリルフールのフェイクニュースって話だけど、佐賀が独立するなら和歌山もありじゃね」
食堂でスマホをいじりながら圭太はバイトの時間を確認した。
「いや、二番手って言うのはダサくね」
省吾は真面目に返事をしたが、本気で佐賀県が独立したとは思っていない。
「ここだけの話、エイリアンに乗っ取られったって話もある」
どんどん適当に話が流れていくが、それに異を唱えるものなどいなかった。軽い暇つぶしの会話だ。
「独立するより、県名を改名するってのはどうだ?」
そんな、時間つぶしの会話を本気の声で拓海が遮った。
拓海は県外から入学して来たとても愛嬌のあるノリのいい奴だった。雪国に住んでいたらしく、大学の寮の満開の桜を見て、「入学式に桜が咲くなんて感動だ」と一人花見をしていたちょっとかわいいやつである。
「改名? うどん県みたいな?」
「まあ、そんな感じだ。前から思ていたんだが、和歌山県って名前はダサくないか?」
「お、お前何言ってんだ! ここには地元民もいっぱいいるんだぞ。喧嘩売る気か?」
幸い拓海の言葉で気を悪くした生徒はいないようだったが、自分の県を悪く言われていい気分でいられる奴はいないので、ちょっときつめに言った。
「ああ、すまん。別に悪口で言ったわけじゃないんだ。ただ、こっちに来るときに観光本探したんだけど、あまりの種類のなさと薄さにびっくりした。はっきり言って南紀白浜が和歌山だと知らんかったし、観光地としてのアピールがへたくそだなぁと思ってな」
そう言われてしまえば、言い返すことはできない。
「和歌山といえばみかんとか梅干しとかしか思い浮かばんかったけど、きたらスゲーいろいろ美味しいものはるし、そもそもこんなきれいな海があるのに、イメージがないんだよな」
それで拓海は考えた。
どうしたらもっと和歌山をアピールできるのか。
それで、ふと名前が悪いのではないかと思ったそうだ。「和歌山県という名はダサい」と。
「いっそのこと和歌県ってどうだ。奈良や鎌倉みたいに古都って感じがするし、外人受けするんじゃないかと思うんだ」
たった一文字外すだけで、わびサビの似合うおしゃれな名前になったような気がしないか? と嬉しそうに聞いてくる。
「うーん、確かに」
そう、キラキラした瞳で言われるとそんなような気もするから不思議だ。
「だろ、独立なんかしたって何の得にもならん、絶対に改名だ!」
勢いよく立ち上がると拓海は鞄をつかみ食堂を出て行った。
そのまま寮に帰り、知事に長々と手紙を書いたそうだが、ついぞ返事は来なかった。
「俺は決めた。就職は県庁にする」
もちろん和歌山県を改名するためらしい。
圭太も省吾も反対はしなかった。二人とも地元出身だが今まで県名を改名しようなどと考えもつかなかった。それが現実的であるかは別として、彼のように和歌山県を好いてここに根を下ろし就職しようと考えてくれるのはちょっと嬉しいと思えた。
彼なら何か変えてくれるかもしれないとも思えた。
結局和歌山県は独立はしなかったが、若者に未来を考えるきっかけを作った。
和歌山県独立じゃなくて改名案検討? 彩理 @Tukimiusagi
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