自然消滅したはずの彼女が、僕のいる高校に転校生としてやってきた。
ちい。
第1話
僕が彼女見たのは、それが最後だった。
中一の終わりに塾で知り合い、それから彼女から告白されて付き合い始めてから約二年。
彼女はとても明るく社交的で、僕には勿体ないくらいに可愛かった。それで、よく友達にも羨ましがられたくらいだ。
高校受験を無事に終えた卒業数日前の休日。
その彼女が知らない男子の腕を掴み、親しげに歩いている姿があった。ただ、並んで歩いているだけなら分かる。だけど、楽しそうに満面の笑みを浮かべ話しをしながら、その男子の腕を掴み、歩いている。
僕らは違う中学に通っており、二人で会う時以外の彼女の事は何も知らなかった。初めて見る彼女。
そんな彼女の様子をみて、何故だか、二人の並んで歩く姿がしっくりくるのを感じてしまい、あれほど、彼女を思っていた僕の心がすっと冷めていくのが分かった。
浮気やなんやを疑ったわけではない。
似合っているのだ。
僕のような平々凡々の人間よりも、彼女の隣を歩く背も高くイケメンの男子の方が。
ここは見なかった事にしよう。
そして、もう……
彼女に連絡するのはやめよう。
多分、平均的で大した取り柄のない僕よりも、今、彼女の隣を歩く、あの様な男子の方が良い。だから、僕は身を引くべきだ。
そして僕は彼女のアドレスから連絡先を消し、LINEもブロックをした。
僕があの日に連絡する事をやめてからも、ずっと着信があった。連絡先は消していたが、電話番号は覚えていた。だから、ずっと無視をした。そしたら、いつの間にか掛かって来なくなった。その時思ったのは、同じ中学校じゃない事と、自宅を教えていなかった事が良かったと思う。
こうやってスムーズに自然消滅出来たから。
あれから僕は高校に入学し、慌ただしい新生活の中で彼女の事なんてすっかり忘れていた。
でも所詮は中学生の恋愛。そんなものだったのだろう。恋愛への憧れ。多分、本気の恋愛ではなかったと思う。
薄情だと思われるかもしれない。でも、本当の事なんだ。高校でできた友達との付き合いや部活。何やかんやと目まぐるしかった時間の流れ。それが、落ち着いてきた入学して二ヶ月程が経った頃。
僕は高校で新しい恋をした。
ふとした時に声をかけられた事が切っ掛けだった。とても小さな声で、恥ずかしそうに。
確か、数学の課題についてだった。
それから僕らは挨拶をかわすようになり、自然と会話も増えていき、お互いに惹き付けあわれるように好意を抱き、一年の二学期の中頃に付き合い始めた。
あの彼女とは正反対の大人しく、のんびりとした性格。容姿は僕と同じく平均的で、でも笑顔がとても可愛い。
春休みに僕の部屋で初体験。あの彼女とは二年間付き合ってキスまでだった事を考えると、随分と早く二人の関係が進んだなぁと思う。
しかし、忘れたといいながら、あの彼女の事を交えて話したかというと、嫌でも、思い出してしまう出来事が起こってしまったからだ。
それは、二年に進級して初めてのホームルーム。
教室に入ってきた担任の後ろからついてきた女子。長い黒髪、少し太めの気の強そうな眉につり目勝ちの瞳。すっとした鼻梁につんとした鼻尖。桜色の少しぽってりとした唇。
美少女である。
担任が黒板に、その少女の名前を書いている。
『
男子が転校生である梶原に魅入っている。そんな中、僕だけが下を向いた。否、下を向いたどころではない。ほとんど机に鼻が引っ付きそうな程に頭を下げた。僕の前の生徒の陰に隠れるように。
簡単な自己紹介を終えた梶原が教室をぐるりと見渡している。そして、その視線が僕を見てぴたりと止まった。
その時、僕は運悪く、少しだけ顔を上げ、梶原の方を見ていた。だから、梶原と視線があってしまったのだ。
「拓也っ!!」
僕だと分かった梶原の目が大きく開かれると、その愛らしい唇から僕の名前が呼ばれた。
そう……梶原は僕と自然消滅したあの彼女なんだ。
自然消滅したはずの彼女が、僕のいる高校に転校生としてやってきた。 ちい。 @koyomi-8574
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