第9話 葵の悩みはどれだ?

 長身二名を含む男四人で黙ってアイスを食する図は、傍から見たら少しばかり気味悪くはないだろうか。


 僕らの向かいに座っている葵と基など、お互いのアイスを半分ずつ分け合っている。恋人同士でもそんなのやらないと思うぞ?え?普通やるのか?


 僕は法子とはやらないよな……。まあ、一口ずつ味見をするくらいなら有りかな。

 去年までは僕たちも普通に塾デートしていたんだよな……。目の前の弟たちを見て法子を思い出すなんて。ああ。法子が足りない。


 「なんだ、茂生。食わないのか?溶けるぞ」

 「あ、うん、食べるよ」


 始は食べたいのかな。半分あげてもいいけど。


 「おい、葵、話の続きはどうなったよ?俺ら受験生が貴重な時間を割いているんだからな。そこ、忘れんなよ」

 自分からファミレスに誘っておいて、良く言えるよな。それが始だけど。僕もこれくらいの気持ちが欲しいな。


 すると葵はアイスを食べていた手を止めて、スプーンを器に戻した。


 なぜ、そこで、上目遣いをするんだよ……。


 「ねぇ、あの、さ、みんな気付いてる?」

 「何をだよ?」

 横にいる基は葵からちょっと離れたい様子に見える。それぐらい弟の仕草が変わり始めていた。


 「最近さあ……鏡を見る度思うんだよね……」

 「おっ?お前も髭が生えるようになったのか?」

 始がからかうように言うと、葵はムスッとした。


 「違うってば。そんなんじゃないの。えっ?始兄は高1から生えてたの?」

 「俺か?うーん。多分それぐらいじゃねえ?基はまだか?髭剃ってるの、見た事ねえし」


 「……まあ、産毛状態だけど。面倒くさいな」

 まじまじと葵が基を見る。そうだ、何かにつけて先を越されているからな。こいつの方が早く生まれたのに。妙な所でライバル意識を燃やしている。馬鹿なヤツ。


 「茂兄は例外だから、おいとくとして」

 「おい、何で僕が例外なんだ」

 「ええ?だって茂兄は体毛うっすいじゃん?ちゃんと生えてる?」

 

 僕は開いた口が塞がらずに、アイスを入れる事も出来ずに、恥ずかしさで固まってしまった。


 まさか、弟にファミレスであらぬ心配をされる(されてないとは思うがコンプレックスがそう思わせる!)とは思わなかった!どこの体毛だ、とは言われてないけど。


 ……それは……妹の楓よりも体毛は全体的に薄いかもしれないが……。

 「いや、茂生はちゃんと生えてるぞ。俺、昔見たから」


 「……兄貴、そっちの意味じゃないと思うけど」

 「え?自分、そっちの意味で言ったもん」

 「ホラ、な?そうだよな、葵?」

 「うん!」


 ……全くこいつらは、本当に……はあ。付き合いきれない。


 「僕の事はいいから。何に気付くんだよ」

 

 葵はハッ、として、自分の顔に手を当てた。

 「なんかさあ……この顔、だんだんゴツくなってなくない?」

 三人とも葵の顔をじっ、と見つめる。


 ……なんか、僕は分かったと思う。さっきも感じた事だな、多分。


 「当たり前だろう。成長してるんだから」

  違う。基、違うと思うよ。みんな気付かないのかな。


 「違うんだって!なんかね、この顔、どっかで見た感じになってるの!てか、だんだんそれになってなくない?」


 ……僕の思った通りだ。祖父の厳さんに似てきたんだよ、基。分からないかな。

 「……ああ!厳さんだな、葵がもうちょっといかつい感じになれば、ソックリだな!」

 始は分かったらしい。基は、ああ、なるほど、と葵の顔を見ながら、納得していた。



 「ねえ、やっぱりそうだよね?この顔、厳さん一直線だよねえ?嘘でしょう~!」


 ……そうか。こいつは心が女子だったっけ……。

 

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杉﨑さんちの茂生くんは長男の存在意義が不明瞭   永盛愛美 @manami27100594

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