第291話 仕方なし

「いえ、私一人で間に合ってますんで...」


「そんなこと言わずに! お願いします!」


「というか、そもそも私の雇い主はフローラさんなんですよね...だから私に言われても...」


 段々面倒臭くなって来た私は、そう言ってフローラさんに振ったのだが、フローラさんはフローラさんで露骨に迷惑そうな表情になってしまった。うん、そりゃそうだよね...フローラさんゴメン...


「ではフローラさんにお願いします! 私も雇って下さい! もちろん無給で構いませんので! どうかお願いします!」


「そう言われましても...」


「こう見えても私、腕っぷしは結構強い方なんできっとお役に立ちますよ!」


「ハァ...」


 その時、私は周りの気配が変わったことに気付いた。オープンカフェなんで通りに面してる訳だが、人混みに紛れてこちらを伺っている視線が複数。


 どうやら囲まれたらしい。懲りない連中だ。


「ところでフローラさんはどんなヤツに狙われているんですか?」


「そ、それは...」


「ステラさん、フローラさんを狙っているのはああいうヤツらです」


 そう言って私は、店の周りを囲んだ輩共を指差した。


「なるほど! 見るからに悪人顔ですね! 私にお任せ下さい!」


 そう言うなりステラさんは、店の周りを囲っている輩共の中に突っ込んで行った。


「ウリャアッ! ドリャアッ! ゴラァッ!」


 ステラさんはちぎっては投げ、ちぎっては投げといった感じで次々と輩共の数を減らして行く。


「か、カリナさん...ほ、放っておいていいんでしょうか...」


「フローラさん、心配要りませんよ。なんてったってステラさんは脳筋ですから。あんな輩共なんか束になったって敵いっこありません」


「ハァ...そういうもんなんですか...」


「はい、なにせ脳筋ですから」


「脳筋ってそんな便利な言葉でしたっけ...」


 そんなアホな会話を交わしている間に、全員を片付けたステラさんが意気揚々と引き上げて来た。


「どうですか! フローラさん! 私、頼りになるでしょう!?」


「そ、そうですね...」


「雇って貰えますよね!?」


「え、え~と...」


 困り果てた様子のフローラさんが、助けを求めるように私を見て来た。これはもうしょうがないな...フローラさんにこれ以上迷惑を掛ける訳にはいかないし...


「フローラさん、仕方ありません。雇ってあげて下さい。私が全責任を持ちますので」


「ハァ...カリナさんがそうおっしゃっるなら...」


「ありがとうございます! 私、頑張りますね!」


 ステラさんはとっても良い笑顔を浮かべてそう言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あとは野となれ山となれ~勘当されて使用人に落とされた伯爵令嬢は虐待される前に逃げ出します 真理亜 @maria-mina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ