入学したばかりで『何か』をしたいのに何をすれば良いのか決めかねていた男子高校生『楠千尋』は、腐れ縁の友人『新田秋義』や演劇部の面々に半ば強引に入部させられると、即座に『女役』として舞台の上に立つことになり――!?
そんなインパクトのある冒頭から始まり、そして『高校の演劇部』をメインテーマとしている部分も、特徴的かつ魅力的だなと思いました。作者さんの実体験に裏打ちされたリアリティで描かれる物語は、実に『青春っぽさ』に満ち溢れています。
演劇部の先輩達や1年生の仲間達は、個性的どころか『濃い』とすら呼べるほどで、更にライバル校やそこに所属する面々なども、実に多種多様でそれぞれの『色』がありました。
各部員の視点で語られるエピソードも多く、彼ら彼女らが抱える想いやトラウマや過去が明かされ、それらを踏まえた上で展開される舞台上の『演技』は、まさに己の魂や人生を削って表現されているものなのだなと伝わってきました。そんな必死さを、文章のみで表現しきっている作者さんの技量も素晴らしいです。
野球やサッカーやバレーや自転車競技にも引けを取らない、スポーツ部活モノに匹敵するほどの熱さや爽やかさが駆け抜けている良作だと思いました。
ただ、主人公の千尋のキャラクター性において問題となるような言動や、心中での悪態がちょっと多いように個人的には感じました。そこを受け入れられるか否かで、作品の印象も変わってくるかと思います。
しかし千尋もまた重い過去を抱えており、それでいて他人を見下したり侮辱するような相手には憤る熱さを秘めているため、作品同様に今後の成長に期待が持てます。
青春という舞台の上で、スポットライトを当てられた『登場人物』の彼ら彼女らが、どんな物語を魅せてくれるのか。非常に続きが気になる良作でした。
現在、10話まで読んだところでのレビューになりますが、最初から最新話まで、青春文学という言葉がずっと浮かんでいました。
決して能動的に入った部活ではないし、乗り気ではない初舞台を踏んだけれど、眠っていた才能を認めてくれる先輩、その世界へ引き込んでくれた悪友など、誰もが経験してきた、または憧れた学校生活が存在しています。
登場人物の方は、誰もが人間ができているとはいい難い、でもそれは高校生ならば誰もが持っている感覚、いうなれば自らのプライドとテリトリーの表れのようにも感じ、これが部活、そして舞台を通して、どう変化して融和していくのかが楽しみになります。
決して天才とか非凡とか、そういったものは出てこない、でも大切な学校生活の一部だと感じさせられるところにリアリティを感じずにいられません。