第1章 出会いの始まり~高校生~
私が彼と出会ったのは、高校二年生の時だった。彼の名は、
その当時、私には別に付き合っている人がいた。彼は、私の彼氏と同じクラスメイトで彼氏の友達だった。一言でいうと、私と彼の関係はただの知り合いだ。
「京香、今日も彼氏のところでご飯食べるの?」
「うん! お弁当作ってきたんだー」
「本当に彼氏のこと、大好きだね」
女友達は苦笑しつつも、私を見送ってくれた。
私は、毎日好きな人とは電話もメールもしたいし、可能なら毎日会いたいタイプだ。学校でも同じクラスだったら良かったのに、と何度思ったことか。
隣の教室へ行くと、ちょうど出入口のところで彼に声をかけられた。
「桃井じゃん! また、アイツに会いに来たのか?」
「そう! 一緒にお昼食べる。そっちは?」
「これから売店に行くとこ」
「おお、行ってらっしゃい」
いつもこんな感じで軽く話す程度の仲だった。すぐにお互い、それぞれの行く先へ向かう。
「お、京香! 待ってたぞ」
「お待たせ。お弁当持ってきたよ」
「サンキュー!」
彼氏の嬉しそうに弁当を開けるその表情が愛おしい。そして、好物の唐揚げを見つけ、テンションを上げている姿もまた可愛らしくて好きだ。
「唐揚げじゃん! 俺の好物!!」
そう言いながら、一口で頬張る。
本当に嬉しそうに食べるから作りがいがある。その様子を見ながら、私もお弁当を開けて食べ始める。
私より早く食べ終わった彼氏が、授業のことやバイトの話をする。私は、ゆっくりお昼を食べながら、その話を頷きながら聞く。これがいつもの私たちの光景だ。
「そういや、西野が珍しく彼女のことで悩んでるらしい」
「え、そうなの?」
「なんか、彼女の誕プレどうしようかなって呟いてた」
そう言いながら、彼のメッセージを表示した画面を見せてくれる。
『もうすぐ、可愛い彼女の誕生日だ。女の子って、何をもらったら嬉しいんだ?』
彼はクールなイメージだったので、意外だった。
「西野くんって、もっと淡泊な人かと思ってた。こういうの呟くんだね?」
「えー、アイツ結構ふざけた奴だぞ」
「知らなかったなぁ」
彼の話題で盛り上がり始めた頃、ちょうど本人が売店から戻ってきた。
「なになに、何の話してんの?」
「お、西野! お前の話をしてたんだよ」
「え、俺? やだなぁ、お前は俺のこと本当に好きなんだからぁ」
裏声をわざと出して、彼は女の子っぽく反応する。その姿が面白くて、つい吹き出して笑ってしまった。
「あ、うけた。もう、やめてよぉ」
彼がさらに女の子の真似をするので、ますますツボに入ってしまう。
ひとしきり笑ったあと、何気なくさっきの呟きの話をしてみる。
「西野くん、彼女の誕プレをどうしようか悩んでるんだって?」
「ああ、俺の呟きの話をしてたのか」
彼は普通の声に戻り、照れ臭そうに笑った。そして、嬉しそうに彼女の話をする。
(彼女のこと、大事にしてるんだなぁ)
その時は一途で、優しい人という印象でしかなかった。
「桃井は、どんなのをもらったら嬉しい?」
「んー、アクセサリーとかお揃いのものかな」
「俺ら、お揃いのネックレスを持ってるよな」
それまで黙って聞き役に徹していたはずの彼氏が、急に口を開いた。彼に、制服の下に隠しているネックレスを見せる。
「え、いいじゃん! 男女つけても違和感ないデザインだな」
「値段も手頃だったぞ」
「まじか、アリだな」
彼は真剣な表情でネックレスを見つめていた。彼氏が携帯で、お店のホームページのリンクを彼に送る。礼を言いながら、早速チェックし始めた。私も一緒になって、色々なアクセサリーを見ながら、彼女目線でアドバイスした。気づいたら、授業開始十分前のチャイムが鳴り始める。
「おし、コレ買いに行くわ」
彼の彼女への誕生日プレゼントも、チャイムが鳴るのと同時に決まった。
とても嬉しそうにしているのを見て、こっちまで嬉しくなる。
「二人ともサンキュー!」
「どういたしまして」
「絶対喜んでくれるよ! じゃあ、私は教室に戻るね」
「おう」
周りが移動するのに合わせて、私は席を立った。教室を出て行こうとすると、彼に呼び止められる。
「桃井! 色々とありがとな。良かったら、俺の追加して!」
そう言って、彼から小さい紙を渡される。中を開いてみると、アカウント名とIDが書かれていた。
「え、いいの?」
「むしろダメな理由ある?」
「彼女とか……」
「ああ。全然、桃井なら大丈夫!」
彼は、ニカッと歯を見せて笑った。
(少年っぽいところもあるんだなぁ)
と思いながら、礼を言って教室に戻る。
授業が終わって、彼氏が部活の日だったので、友達とそのまま家に帰った。
「ただいま」
「あら、おかえり。これから夕飯の買い出しに行ってくるね」
「はーい」
「京香も行く?」
「ううん、宿題やる」
玄関で母親とすれ違い、そのまま自分の部屋へ向かう。
制服から私服に着替えようと、スカートのポケットの中身を取り出す。中から紙が擦れる音がした。
(あ、そうだ。アカウント、追加するの忘れてた)
昼間の会話を思い出し、早速検索をして追加する。すぐに承認されて、驚く。
「え、はや!」
つい、声が出てしまった。
さらには、メッセージまで来たのだ。
『追加、ありがとう! 追加してもらえて嬉しいわ。改めて宜しく!!』
まるで、追加されるのを待っていたかのような文面だ。何と返そうか、しばらく考えてから返信をする。
『こちらこそ追加、ありがとう! 彼女の誕生日祝い、成功するといいね!!』
『ありがとう!』
またすぐに返信があり、既読をつける。そのまま、彼の呟き内容を何気なく遡ってみた。主にゲームのことや彼女との惚気の呟きが目立った。
(本当にこのカップル、ラブラブだなぁ)
そう思いながら、アプリを閉じた。
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