第2章 運命的な出会い~専門生と社会人~

 SNSを追加したのをきっかけに、彼とは高校生の間でからに変わっていった。

 だが、お互いに相手がいたので、特に恋愛に発展することは全くなかった。

 その後、私は専門学校に進学する時に彼氏とは別れた。一方、彼は高校を卒業してすぐ社会人になった。高校生活とはまた違い、私は日々勉強と実習で、目まぐるしく時間が過ぎていく。やがて、学校生活にも慣れてきた頃、同じ学校で新しい彼氏が出来た。

「京香は今日も本当に可愛い」

「ふふ、ありがと」

「今日、学校終わったらデートしよ?」

 毎日のように、彼氏が甘い言葉を言ってくれて、とても幸せだった。どんなに忙しくても彼氏の言葉で、今日も頑張ろうと思えたのだ。



 そんなある日、彼氏の態度が変わっていった。

「京香、俺以外の男となんで連絡取ってるの?」

 彼氏の家でのんびりしている時だった。私は、男友達と文化祭のことでやり取りをしていた。それを見た彼氏がすごい剣幕で怒り出したのだ。

「え、文化祭の準備で質問に答えてただけだよ……?」

 やり取りしている画面を見せながら、説明する。それを確認した彼氏は、

「ふーん」

 と言ったきり、その日は口数が少なかった。突然の彼氏の変化に違和感を覚えたものの、特に深くは考えなかった。

 これが苦痛の日々の始まりになるとは知らずに————。


 それからしばらくして、だんだんと彼氏の行動がエスカレートしていったのだ。彼氏は気さくでルックスも良かったので、女の子には当然モテた。だんだんと多くの女の子とひたすら連絡を取るようになって、デートしたり、泊りに行ったりなどと浮気もしていたのだ。毎日、私は不安で胸が押し潰されそうになった。体調にも変化は、現れ始めた。しかも、どうやら彼氏は、女の子を自分の家に呼んだりもしているようだ。

 だが、そんなことをされても私は、彼氏とは別れることが出来なかった。

「京香っ! 誰と連絡してんの?」

 自分も女の子と連絡をしているのを棚にあげて、私ばかりが責められた。

 久々のお家デートをしている時も、彼は携帯をずっと触っていた。ご飯を食べる時もだ。一足早く、私は食べ終わっていたので、何気なく携帯を見ていた時だった。

「メッセージ、見てるだけだよ?」

 彼氏の怒鳴り声に萎縮し、顔を見るのが怖くて下を向いたまま、小さく答える。

「え?」

 声が小さすぎたのか、彼氏に聞き返される。もう一度、さっきより少し大きめの声で、同じことを言う。

「嘘つけ。どうせ男だろ?」

「違うよ!?」

「信用できねー。携帯、見せて」

 両手で握りしめていた携帯は、いとも簡単に彼氏に奪われてしまう。そして、彼氏が携帯の画面を確認しているのをただ見つめることしか出来なかった。

 みるみる彼氏の表情が険しくなり、

「やっぱり男と連絡してるじゃねーか!!」

 と怒鳴られたかと思いきや、体に次々と激しい痛みが走る。

 一瞬、何が起きたのか、頭が追い付かず、じわじわと体に痛みが広がる。床を見ると彼氏が先程使っていた食器と私の携帯が転がっていた。私は、状況を理解するより先に携帯を拾い上げて、そのままトイレに駆け込み、鍵を閉めた。

「おい、京香っ!!」

 彼氏がドアの向こうで怒鳴っているのを耳を塞いでやり過ごす。次から次へと涙が溢れて止まらない。この空間から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 どれくらいの時間が経っただろうか。しばらくして、彼氏の怒鳴り声は止んだ。しかし、すぐにはトイレから出る気力が湧かない。何気なく、SNSを見始めると、懐かしいの投稿を見つけた。


[かなり旨い! 星四つ!!]


 それは、食べログのようなラーメンの投稿だった。今思えば、誰かと話したくて、相談したかったのかもしれない。

『美味しそう! ラーメン?』

 思わず、彼の投稿にコメントしてしまう。

『おお! 桃井じゃん。久しぶり!! そうだよ。めっちゃ旨いからオススメ!』

 すぐに彼から返事があった。その速さに驚く。そして、高校の時を思い出し、笑ってしまう。彼の変わっていない雰囲気に安心感を覚えた。それからメッセージで、お互いの近況報告を少しずつし合い、会話するようになった。



 会話をしていくうちに、彼氏の暴力についても私は、彼に相談に乗ってもらうようになった。

『今日も大丈夫だった?』

『うん、今日は穏やかだった』

 彼氏とのデートの帰り、心配してくれた彼からメッセージが来ていた。

 ここのところ、毎日連絡を取っている。何ヵ月にも渡って、親身に相談に乗ってくれる彼。私の中で、彼の存在がどんどん大きくなっていく。

 そして、何故か今日は心無しか、いつもより既読されるのが速い気がした。

いつも彼は返事が速いのだが————。

『良かった! ……俺だったら、桃井にそんな辛い想いをさせないのに』

(えっ……!?)

 思いもかけない言葉だった。

 思わず、キュンとしてしまう。

 何と返信しようか、暫く考え込んだ。彼の気持ちと私の気持ちが少しでも同じであったらいいなと思ってしまう。

『ありがとう! いつも相談に乗ってくれて、助けてもらってばかりでごめんね。西野くんが居てくれて良かったって思う!』

 すぐに既読がついた。だが、なかなか新たなメッセージは来ない。

(会話終了かな?)

 暫く待ってみたが、五分経っても特に返信がなかった。少し寂しいような気持ちになりつつ、そのままアプリを閉じようとした時だった。新着メッセージを知らせる通知が来る。

 すぐに開いてみると、

『もし良かったら、今度ご飯に行かない?』

「ええっ!?」

 つい、驚きの声を出してしまった。丁度、最寄り駅から家に向かって歩いていた時だ。幸い、夜で人通りも少なかったので、あまり恥ずかしい思いをせずに済む。

 自分の目を疑い、もう一度文章を読んでみる。何度読んでもデート(?)のお誘いだ。

 返信せずにいると、彼からもう一通。

『無理にとは言わない! 久々に会って話したいと思っただけだから』

 彼も会いたいと思ってくれていたことが、とても嬉しく思った。私は歩きながら、携帯の上で指をすぐに滑らせる。

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