第3章 成人式magic~20歳~

 彼からご飯に誘われて、数日が経った。

 彼と会う日が近づくにつれ、気持ちが高鳴る。

 だが、世の中は上手く行かないようになっているらしい。家の事情で、彼と会うのが難しくなってしまった。

『本当にごめん!』

『いいよ、全然!むしろ、家の方は大丈夫?』

 ドタキャンという形になってしまったにも関わらず、彼はどこまでも優しかった。家族のことまで心配してくれて、本気で仏様か何かかと思う。

『うん、心配してくれてありがとう!』

『良かった。傍にいてあげてね』

 彼の言葉に思わず、キュンとする。

 本当に心が広い人だ。

『話変わるけど、桃井って成人式行くの?』

 そうだ、もうすぐ成人式が近い。あっという間に二十歳になってしまった。高校の時に想像していた二十歳と、今の自分は全然違う気がする。もっと大人だと思っていた。現実はそう甘くないようだ。

 そんなことを思いながら、彼に返信する。

『行くよー! あ、でも西野くんって、高校は一緒だけど、中学は違うんだっけ?』

『そうなんだよなぁ。ちなみに二次会とかも参加する?』

 今日は珍しく彼からの質問が多い。少し淡い期待が膨らむ。

『参加する予定! 西野くんは?』

『俺、同窓会の司会やることになってて、参加必須なんだよ』

『ええ!? そうなんだ? 大変だね』

『だけど、会場が地味に遠いんだよなぁ』

『そうなの? 私は、最寄り駅の近くらしい』

 二次会の案内状が来ていたのを思い出し、机の引き出しから引っ張り出す。葉書には、開催日時と会場名などが書かれていた。

『え、マジ!? 俺もだよ! 司会するし、酒飲めないから車で行こうと思ってる。事前に打ち合わせとかもあるし』

『すごい偶然! こんなことあるんだね。私は、普段飲まないけど、折角の晴れ舞台の日だし、飲みまくってやるー!』

 冗談めかして、お酒のスタンプとともにメッセージを送る。

『良かったら、迎えに行くよ』

 と思わぬ返信が来た。

「えっ!?」

 ますます淡い期待が膨らんでしまう。彼氏がいるのに、彼の言動にトキメキが止まらない。何と返すのが正解だろうか。

 今回、ご飯に行けなくなり、会えなかったのもあって、私の気持ちは揺らいでいた。

(正直、電車使うのも面倒臭いんだよなぁ)

 当日の交通ルートを頭に思い浮かべる。いつもより高いヒールを履いて行く予定だ。

 私は、意を決して、文字を打ち込む。

『そしたら、お言葉に甘えて、乗せてもらおうかな♪』

『いいよー!』

 すぐに返信が来た。

 これで、成人式の楽しみが増えた。



 そして、成人式当日。

 彼に会えると思ったら、朝から落ち着かなかった。しかも、懐かしい人たちに会った嬉しさからか、普段飲まないビールなどを沢山飲んだ。色々なお酒があり、気になったものをどんどん飲んでいった。

 気分も良くなって、完全に酔っ払いの出来上がりだ。今までにないぐらい酔っている。そして、慣れない高いヒールを履いていたせいもあり、フラフラで両足をつってしまった。

「痛っ」

 あまりの痛さにしゃがみこむ。周りの友達も酔っているので、誰も私が足をつって動けなくなっていることに気付かない。

 そんな時、頭上から声がした。

「桃井、大丈夫?」

 驚いて、声の主の方へ顔を上げると、目を見開く。

「に、西野くん……!」

 そこには、クラシックなキレイめの服を着て、ハット帽を被った彼がいた。記憶の中にある彼とは違い、とても大人びた彼。

 そんな彼の姿に驚き、まじまじと見つめてしまう。

「お待たせ。迎えに来たよ」

 彼はニッコリと笑い、垢抜けた姿に驚いている私を抱えて、車まで連れて行く。足を痛めているのに気付いたのか、私の足を気遣いながら支えてくれる。その腕の逞しさから、彼が「」であるのを実感するには十分だった。

(まるで、本物の王子様みたい)

 お酒で回らない頭で、そんなことを思う。

 そのまま彼の車で家まで送ってもらった。

 道中も信号で止まる度に、落ちないように片腕を私の体の前に出したりと神対応。酔っ払いながらもトキメキが止まらない。

 家の前の信号で、彼は車を止めた。

(帰りたくないな……)

 何故だか、私はこのまま帰るのが寂しいと思ってしまった。もっと彼といたいという気持ちが強まる。

 だが、先ほど運転している時に、彼の携帯に電話がかかって来た。会話から察するに、どうやら三次会に誘われているらしかった。このまま長居するわけにもいかない。

 名残惜しく思いながら、

「今日は送ってくれて、ありがとう。会えて嬉しかった」

 呂律が回らなくなっている口で何とかお礼を伝える。そのまま車のドアを開けようとした時だった。彼に肩を掴まれ、自然と彼の方へ顔を向ける体勢になる。

 温かくて柔らかい感触がおでこに残る。

 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 彼の胸が至近距離にあるのを呆然と見つめているうちに、状況を飲み込み始める。

(えええええ!?!?)

 頭の中がパニックだ。ワンテンポ遅れて、おでこを慌てて手で隠す。

「つ、付き合ってないのに、こんなことしちゃダメだよ!?」

「だって、可愛かったんだもん、桃井」

 彼がイタズラっ子のように笑って言った。また、胸がドクンと高鳴る。ドキドキが止まらない。

(見かけによらず、プレイボーイ……??)

 そう確信する夜であった。

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