第10話 永遠をずっと
一年後の春。
深月はリハビリを続けたおかげで日常生活にはなんの支障もないほどに回復して、後遺症も残らなかった。
「深月。見て、桜。綺麗だね」
過去の深月と約束をしたわたしは、桜が満開の時期に二人で花見に来た。
桜の木の下で、わたしを見て笑う深月。
「なぁ、明里。桜ばっかり見てない?」
「だって桜を見に来たんだよ…?」
「……そうだけどさぁ」
桜の木の下から、わたしに向かって手招きをする深月。
「な、なに───って、わあ…っ!」
いきなり手を引っ張られたかと思えば、ドンっ、という鈍い音。
それが深月にぶつかった音だと気づき慌てて起き上がろうとすると、それを止められる。
「もう…っ、びっくりするってば!」
「ははっ。ごめんごめん」
わたしの頭を優しく撫でながら屈託のない笑顔で笑う深月は、とても眩しかった。
もう一度こうして深月と笑い合う日が来るとは思っていなかった。
だから、素直に嬉しかった。
「なぁ、明里。一つ聞いていい?」
「ん? なに?」
「俺の夢の中にさ、明里出てきたんだけど……その時なにか言った?」
「夢? さぁ、分からないけど…」
「だよなぁ。…でも妙に懐かしい感じがしてさ。明里と三年も離れてた気がしないんだよね」
「不思議だよな」そう言って笑いながら、わたしの髪の毛で遊び始める深月。
「ね、ねぇ……そろそろ離してよ」
「…やだ。」
ギューっと、わたしを抱きしめる。
それに照れるわたしはジタバタするもビクともせず、しまいには疲れて身動き一つもできなくなった。
「…なぁ、明里。」
「な、なに?」
「俺。実を言うとすっげー怖かった」
「えっ……」
「いや、別に事故が、とかじゃなくて、……その…、明里と離れ離れになるのが怖かった」
その時、ギュっ、と力が増した。
その手は微かに震えているようで。
「事故に遭って意識がなくなる直前、明里のことを想ってた。ちゃんと守ってやれたかなとか無事かなとか…」
「深月……」
事故に遭ったことさえ忘れてしまっていたわたしは、意識がなくなる直前に深月がそんなことを思ってくれていたなんて知らなかった。
「───でも、目が覚めた時、明里がいてホッとしたんだ」
「……深月…っ、」
「おいおい。泣くな泣くな」
「だ、だって……っ」
「ったく。ほんと明里は泣き虫だよなぁ」
昔と変わらずにわたしの涙を優しく拭ってくれる深月。
その手の温もりが、変わらずにわたしに向けられていて嬉しかった。
「なぁ、明里。俺と未来に向けての約束をしないか?」
「未来に、向けて……?」
「そう。これから先、何があったとしても絶対に俺の傍を離れないって」
「……え。それ、って……」
少し上を向いて深月の顔を見ると、ほんのり赤く染まった頬。
その姿が愛おしく感じた。
「この先も俺の隣にいてほしい。だから……
──大学卒業したら、俺と結婚してほしい。」
「……もちろん。こちらこそ…っ、」
顔を染める深月と、涙を流すわたし。
かっこなんて全然つかないけど、それがなんだかわたしたちらしかった。
今となっては本当に、過去に戻っていたのか、そんな奇跡みたいな出来事が夢だったんじゃないかと思ってしまう。
ゆっくりと深月の顔が近づいてきて、それに自然と目を閉じるわたし。
桜の木の下で、キスをした。
そんな麗らかな春。
これから先も、深月と過ごしていきたい───
ー Fin ー
明日もまた、きみに会いたい。 水月つゆ @mizusawa00
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