この時代にないものはありますね。

@Yulii_Smirnov

第一店 タイソ―「そこに居なければ、居ませんね」

ーエビで鯛を釣る想像で楽しむ、タイソ―が午後5時をお伝えしますー


「ここは何でも揃うけど、なんでもそろわないんですよね、ねぇ店員さんもそう思いません?」

 主婦と幼稚園くらいの子だろうか、レジかごには手芸用品が何点か。俺の苦手なジャンルだ。

「何かお探しでしょうか、もしかして幼稚園のものとかつくってもらうのかな?」

 この主婦とあまり会話したくない、自然に逃げて子供にきく。なさけない大人だ。

「えぇ、この子もね、お姉ちゃんがやってるみたいにしてほしいって」

 この店員さん、子どもの対応は上手いみたいね…けど財布の紐は私よ。

「でしたらあちらの棚の方に、俺案内しますよ。良かったな、お母さんに作って貰えそうで。大事にしろよ」

「うん!!」

 このおにいちゃん、おねちゃん先生みたいにうるさくなさそう!あそんでほしいな。

「あら、ありがとうございます」



*

「うーん、その…綿とかピンクのフェルトがちょうど無いですね。『江戸っ娘戦士!ヒストリカルガール』の布はあるんだよね?」

「うん…おかあさん、作れそう…?」

「ごめんなさい、ここに無い物は無いですね…」

 いつも言う度に、メンタルポイントMPが3/100位さがる。

「あらそう…ごめんなさいね」

 近くの他のお店に無かったから来たのに、入園シーズンは大変ね…

「それといっては難ですが、近くに別の100均あるんでここ行ってみてください」

 いつも、バイト帰りに俺がいく100均だ。

「あら、ありがとうね。お兄さん」

「ありがとう、お兄ちゃん。これあげる!」

 それは、俺が喉から手が出るほど欲しかったヒストリカルガールのシールじゃないか…

「いいの、あげちゃって?家にはあるけども」

 だって、私が監督・演出なんだもの…そりゃあるわよね、ハハッ…

「うん!」

 ありがとうっておもったらわたすの、おとうさんとのやくそくだもん。

「来月放送回また絵を描かなきゃ…あぁ早く受け取って、見ると疲れるのよ」

 よく見ると、主婦の方は目の下にクマが出来ていた。というか放送って言ったか、今?この人…

「はっはい、頂きます、じゃぁ、ごめんね。お店になくて」

 サインをと言おうと思ったけど娘さんの手前だしやめておいた。たぶん、ヒストリカルガールのスタッフだ。大変だな、アニメの仕事も。

「では、お店開いてるうちに行ってくるので。ありがとうね」

「いえ、こちらこそお役に立てず申し訳ありませんでした。頑張ってください!」

 行先に振り返りながら、主婦は唇にそっと人差し指を添えた。



**

―タイムリーに相談できる、あなたのものづくりパートナー、タイソーが午後5時30分をお伝えします―


「2番入りまーす」

 うちの店の1時間休憩の暗号だ。

「おぅ、ソースケ大井宗助:おおいそうすけ、これ持ってけ」

 店長はいつもそういって期限の近い、飲食料品を棚から下して、レジかごから何か適当なものをくれる。

「ありがとうございます!じゃ」

 ソースケはいつもよく働いてくれる。これだったら、漫画家兼ギタリスト目指すとか世迷言言ってても、いつ何処へ行っても大丈夫だろう・・・!!

「店長、店長!レジ」

 タイソ―大宗造:おおむねつくる店長は気配りが店員に向いて、客に向かないことが有る。

「おぅわりわりぃ、そっちも入るわ。ダイタさん太台揃:だいたそろう?もこれ飲んで一息ついて」

 こいつもなんやかんや、この店長いな。

「ったく、お願いしますよ...それに、私はタイタ太田揃:たいたそろいです!」

 とか言いつつ、私達バイトは親しみも込め、大宗おおむね店長を店の名前と同じタイソ―店長と呼んでる。

「お並びのお客様、わたしの方でもお会計受けまーす。レジにお並びください」



***

―タイソーな事なんて言わなくていい、大層なものを造れ、タイソ―が午後6時をお伝えします―


「ふぅ、にしてもヒスガのスタッフ、こんなに近くに居たとは」

 店長からもらった菓子パンを頬張りながら、娘さんからもらったシールを眺めてた。

 同時に、後輩も休憩に入った様だ…なんだこいつか。焦ってかくして損をした。

『闇夜に紛れる辻斬りを狩るシャープな心、やいばココロ!』

「闇夜の空を燃やす火付を改める、とまり十手!」

『闇夜に墜とす謀りを伝える隠密、駿府あおい!』

「闇夜に消えた真を探る瓦版、ふみカオル!」

『闇夜を明けさせる、正義のもののふ、加賀野きばり!』

「『5人そろって、江戸っ娘戦士ヒストリカV、いざ参らん!!!!!』」

「小娘に何が出来る、ここの大店と娘達は私のもんだ。ゆけっ!ソデノシタ―!!」

 いつも俺の下らない茶番に付き合ってくれるのは、高校生ヲタクのダイブ君大分曹達:ダイブソウダ

 なにも大分ソーダ工業の御曹司らしく、ソーダと呼ばれるとキレる。

「いや、ヒストリカ5もいいですね、先輩。宝映映画の歌舞伎っぽさもありますよ」

 先輩に、時代劇好きで引き籠りがちだった僕を映画館に誘ってきた時から、年の離れたヒス友だ。

「で、そのシールはスタッフが配るプレミアですよね、ソースケ先輩?」

 超レアもので、これを先輩が持っているという事はヒスガスタッフがお客さんにいるということだ。

「あぁ、来たんだ。お客さんに。娘さんと一緒にな。でも、次客で来ても娘さんには秘密だったっぽいから、気を付けてな」

「了解です、でソデノシターは?」

 校則で、コミケ参加がバレたら退学なので先輩に廻ってきてもらっている。いつものことで感謝してもし切れない。

「あるよ、こないだのコミケの戦利品だ。公式の手裏剣キーホルダーと次回作『古墳にコーフン!ヒストリガール 』のファイルだ」

 次回作の限定イラストが描かれたクリアファイルは、放送終了間際の冬コミでしか手に入らないレアものだ。

「ありがとうございます、ソースケのお代官様」

「お主もわるよのぅ…フッフフォオフォフォフォ」

「いえいえ、お代官様ほどでは…」



****

―従業員のみなさんお疲れ様です、体操をして体をほぐしましょう。タイソ―社歌社歌Let'sダンシング!Yeah♪―


「「「おつかれっしたー!」」」

 時刻は夜10時を廻っていた。

 5年も務めている内に、店長は先に帰りバイトリーダーの俺にカギとか色々任せてみんなの勤務時間の記録とかを任せる様になっていた。

「じゃぁ、みんな今日の勤務時間、俺が記録するから着替え終わって荷物まとめたら事務室来てね。必ず着替えも含めて仕事だから」

 労働基準法は守りましょう。

「ソースケリーダー、別件でそう言えば、今日、変なお客さんが居ました!」

 いつも、子供向けの文具コーナーで試し書きしているお爺さんが居て気味悪いのよね、あー肩いてぇ。

「いつもの人ね、歴史の年表を呟いてるおじさん…昔は大学の先生だったとか、前に警察に聞いたよ。次、」

「先輩、店長は明日の日曜は何時から来ますか?私と先輩は早めに事務室でTV見る仕事がありますけど」

「ダイブ君、防犯カメラのチェックといいたまえ。決してヒスガを見る訳ではないのだ」

「二人とも、店長も娘さんと一緒に、あんたらと同じTV見てるとは知ってるでしょ…」

「バレていましたか、タイタどの。これはこれは、こっちの世界に来ませんと」

「とりあえず、報告も済んだみたいだし戸締り、コピー機とかレジのカギチェック済んだら、帰り支度してよ」

 さて、事務室であいつら来るの待ってる間にこっちも荷造り荷造り。


*****

「なんなんだろうね、あのおじいさん…」

 鍵を確かめながら、視差点呼しつつ話し合う。

「彼女の私と居る時だけ、ヲタク口調やめるのやめなさいよ。リーダーとも仲いいでしょ…普通にリーダーとたまには遊びに行ったら?」

 なんで、こいつは私なんかが良いのか…

「あのお爺さん、失踪届も無いって聞いたこともありますし、なんか変だよ」

「そうねぇ…知り合いの他の100円均一にも出てないか聞いてみるわ。だから、バカソーダは早く仕事済ませて一緒に帰るのよ!」


*******

 バリンっ!!!

「ジリリリリリ!」

 警報が鳴り響き、リーダーが飛び出してきた。と同時に、噂をすれば不審な爺さんが居る。

「先輩、不味いですって。警察」

「いいから、警報止めて。お爺さん、大丈夫ですか、お家分かりますか…」

 飽くまで、先輩が優しく声を掛ける。

「家分からない、帰れなくなった。私はいま何歳だ。長く旅をしてきた。君たちが探してくれるのではないか?」

 ここには何でも揃いそうで、もう行く先がない。行きつけの本屋も、東京帝大も無くなっていた。帰る家なんてない。

「いや、お爺さんここは100円均一、何か買い忘れたものあったらご家族に渡しとくよ?タクシー呼ぼうか?」

 うーんどうしようかな。

「店長、そのまま!」

 何度か強盗を撃退した経験から、カラーボールを投げた。バカソーダは丸めたラッピング用紙でお爺さんの後ろに廻っている。どけ、バカ。

「店長、よけて!」

 うわっ?カラーボール?なにもここまでしなくても。そして変な方に飛んでった。

「下手!」

 そういって、彼女の投げたカラーボールを僕は棒じゃなかったみたいな何かで撃ち返してお爺さんに当ててしまった。

「ごめんなさい、お客さん…お怪我はありませんか…」

「有ったぞ、有ったぞ、タイムボールが有ったぞ…帰れる。これで帰れる」

 昔に帰れるんだ。そこで先生と呼ばれていたことしか分からないけど、帝大で生徒に訊こう。

「あの、私達まで光ってるんですけど。リーダー、カラーボールって蓄光か何かでしたっけ…」

「先輩、どうにかしてくださいよ、足の先が消えていくんですけど…」

「すまん、二人とも分からんが、俺は何をすればいいのか分からん。人とうちのカラーボールは光らない」

 事実を言うしかないけど、爺さんの言うタイムボールとやらがカラーボールのことなら、もう強盗にそんなもの投げるの止めよう。

「このバカソーダ、何とかしなさいよ!あんたわたしの彼氏でしょ?」

 えっ、そうだったんだ…意外…

「タイタ―さん、ソーダ、爺さん、すまん、もう考えるの放棄した」

 そうとしか言いようがない、フリーターにこんな超常現象どうしろと?

「私は、タイタだっつーの!」

「とりあえず、お達者で。あと、勤務時間付けるから、ちゃんとメモして」

そうして、俺一人を残して、皆消えてしまった。



リーダー日記 2021年4月5日

 タイソーそれは最後のフロンティア。

 タイムボールだかなんだか分からないけど、店長と本社、警察の助けを乞う。

 これは、100円均一タイソ―が江戸時代に送り込まれ、売り上げを伸ばしていく物語である。



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