第3話

翌朝


昨晩は食堂にて夕食を食べたあと部屋に備え付けてある水場で体を清め、そのまま眠りについた。下着とかタオルなどの布類やその他必需品が部屋に完備されていたのは助かった。もともと止まっていた宿に取りに行くのを忘れたせいで明日も同じ下着を着なければならないところだった。



話は変わって、今日から本格的に授業が開始される。科目としては算術、歴史、言語、戦闘の四つを基本とし、選択授業がいくつか存在している。


選択授業は今後決めるとして、問題は歴史だ。戦闘は言わずもがな言語も算術も人通り教わったが人族の歴史だけは全く知らない。何年前に3種族と魔族が戦争したかぐらいしか分からない。


この出遅れは致命的かもしれない。学ぶ気もない歴史に時間を割いてる余裕など無い、俺は一刻も早くスキルを使えるようにならなければならないのに。


「おい、ガンツ起きろ。遅刻するぞ」


「ふが」


まずは受けてみない事には分からんが、まずはこいつを起こすのが先だな。


「ふふ、そんなに食べれない」


幾ら揺すっても寝言を言うばかり、いっその事、腹に一撃入れてみるか?


軽めに軽めに、ホイ


「グフッ」


「起きたか?」


「お、起きた…」


どうやら正解だったようだ。腹を抱えてうずくまっているが、初日から遅刻するよりかはましだろう。


「俺は先に食堂に行ってるぞ」


「うん」


この宿舎には平民しかおらず、貴族は別寮となっており、クラスメイトに同じ平民のいない俺にとっては関りの無い奴が殆どだ。


「寝起き腹パンは無いべよ」


俺が丁度朝食を食べ終わるころガンツがようやくやって来た。


「遅いぞ。そして早く食え。俺がアドバイスしてやれる時間なんて朝ぐらいしかないぞ」


「わ、分かった。早く食う」


そう言うとガンツは凄い勢いで朝食をかきこんだ。


「ごちそうさま!」


「幾らなんでも早すぎだろ」


「おいら早食いは得意なんだ」


得意とかそういう話じゃないと思うが、そんな状態で動けるのか?吐かれなんてされたら俺が困る。


「それじゃ行くか」


食器を片付け、俺らが向かった場所は宿舎の裏手。この場所は、少々狭いが二人で使う分には問題ないくらい広く、大きな音さえ出さなければ迷惑になることもないだろう。


「武器は?」


「拳だ」


そうなると格闘系か。これが槍とか言ったら精々教えられるのは間合いの取り方とか足運びぐらいだったが、格闘ならなんの問題もなくアドバイスできそうだ。


「今更だけんどレイはおいらに教えられるだか?だって腰にあるのがレイの武器なんだろ?」


確かに今俺が腰の両側に下げている刀が俺の主武器であることは間違いない。だが刀が無いと戦えませんでは話にならないと教わり、格闘にもそれなりに力を入れている。


「問題ない。なんなら“筋力強化”も使っていいぞ」


「流石にそれは嘗め過ぎだべ」


“筋力強化”は昨日の百科典に載っていた。スキル名だ。大体の近接戦闘職が一番最初に身に着けるスキルらしい。


百科典は期待外れではあったが無駄とはいい難い収穫だった。


「良いから、使ってこい」


「ほ、本当に言ってるだか?」


「早くしろ!時間は限られてるんだよ!」


「わかっただ!“筋力強化”!はぁぁ!」


ガンツはスキル名を叫んだ後凄い勢いで突っ込んできた。そこには一切の容赦は感じられない。


「思い切りの良さは良いが」


これじゃ全然ダメだな。


大振りのガンツの拳が顔面に迫ってくる。


俺は半歩程後ろに下がり、飛んでく拳を軽くいなした。


「うお!?」


ガンツの体は俺の横を通りすぎ、地面を勢いそのままに滑っていく。


「な、なにをしただか!?」


「俺がやったのは拳を逸らしただけ、ガンツがそこまで吹っ飛んだのはお前自身の動きのせいだ」


「?」


「いいか?大振りは耐久力に余程に自信がなければやるな。隙は多いし威力は低いし良い事無いんだよ。加えて言えばさっき見たく逸らされやすい。」


「??」


首なんか傾げやがって、これじゃいくら説明しても理解出来そうにないな。


「わかった。じゃあ俺が見本を見せる。見て学べ」


「すまねえな。言葉じゃ良く分からなくてよ」


「いいから。両手を重ねて俺に掌を見せるように構えろ」


「こうだか?」


言葉で理解できない物は体で理解してもらうのが一番早い。俺だって体に叩き込まれた。


「そうだ。あと堪えようなんて思うなよ。腕折れるぞ。」


「…」


ガンツは真剣な面持ちで頷いた。さっき逸らされたのが効いたのか、ちょっと素直になったな。


「それじゃ行くぞ」


構えたガンツの前に半身で立ち、腰を少しだけ落とす。放つ拳を軽く握り、体全体の力を抜く。


そして、全身を使いガンツの掌に一直線で拳を突き出す。


ボンッ

「ギィッ!?」


放った拳は鈍い音を立てながらガンツの体ごと掌を吹き飛ばした。


「痛えええ!!」


ガンツは絶叫を上げながら転げまわっている。


大げさだな。折った感触もなかったし、衝撃でジンジンしてるだけの筈なんだが、もしかして吹っ飛んだ時にでも折ったか?


「ちょっと見せてみろ」


取り押さえ手を確認すると、赤くなっては居るが腫れているわけではない。


手を開いたり閉じたりも自分で出来るようだし折れてないな。こいつが大げさなだけじゃないか。少し心配したぞ、俺は骨折ぐらいならすぐに治るが普通の人族はそうはいかないらしいからな。


「大げさなんだよ。とっとと起きろ」


「でも、痛えよ、本当に」



何人かの生徒が制服で歩いている姿が見えた。


「そろそろ時間だな。早く起きろ でないと置いてくぞ」


俺らはそのままそれぞれの教室に移動した。


「おっはよー」


「おはよう」



教室に入るとヘルナが元気よく挨拶してきた。なので俺も軽く返す。



今思い出したアイツ土まみれだが平気だったのか?


「今すぐ落としてくるだ!」


廊下から聞き覚えのある声がしたが聞かなかったことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

半端者たちの饗宴<一度全てを失った俺最初から何も持っていなかった彼女の最強譚> @shousama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ