第2話
解散した他クラスの生徒が男女に分かれそれぞれ別の方向に進んでいく。
勇者やヘルナにクラスで校舎を探検しないかと誘われたが、俺にはこれからやるべきことがあるのでお断りした。
するべきことは二つ、一つは学園内に設置された宿舎への入寮手続き、二つ目は図書室での情報収集だ。
図書室も行きたいが先に入寮手続きを済ましてからの方がよさそうかな。
俺は宿舎と思しき建物に向かって行った。
「ここが宿舎か」
早速宿舎に到着した俺は受付で速やかに手続きを済ませた。手続きは学生証を提示し本人確認を行っただけだった。安全性に欠けると思ったのだが、これで十分らしい。もしかしたら他に特別な何かがあるのかもしれない。
「それで、2階の3号室はここか」
今回もどうやら先約が居るらしい。強そうには思えないが油断は禁物だ。
俺は慎重に扉を開け室内に入った。
「ヤッホー!!」
この部屋で最初に目に入ったのは、寝床の上を元気に飛び跳ねている少年の姿だった。
「何やってるんだ」
口から自然と出た言葉だった。
「え?いや、え?」
困惑したいのはこっちだよ。
「一人部屋かと思って喜んでだのに」
今度は不貞腐れ始めたぞ。しかも若干訛ってる。
「で、誰なんだ?」
「名を尋ねるときは先に聞くのが礼儀だろ」
さっきの感じを見るに俺と同じ平民だろう。だが礼儀ぐらいはちゃんとしておいた方がいい。
「それもそうだか。おいらの名はガンツだ」
「そうか。俺の名はレイと言う。同じ部屋に住む者としてよろしく頼む」
「おう、おいら田舎者だけんど仲良くしてけれ」
田舎育ちなのか。俺も田舎と言って差し支えない場所から来てるから、なんだか親近感が湧くな。ガンツとはなんだか上手くやっていけそうな気がする。
「それでレイは何クラスなんだ?おいらと同じ教室にはいなかったみたいだが」
「俺か?俺はAクラスだ」
「A!?そ、それじゃお前がAクラスに入った唯一の平民!?」
「多分そうだな」
何を驚いているんだ。たかがクラス訳だろ。貴族と同じになる事なんていくらでもあるだろ。
「それじゃあ、レイは凄く強いのか?」
「凄くかどうかは分からないがそれなりには自身はあるぞ」
強さの到達点を知っている身としては口が裂けても自分が凄く強いなんて言えない。あの強さに比べたら俺の力はそれなりが良いとこだ。
「おいらに戦い方を教えてけれ!」
ガンツは鬼気迫った表情で頭を下げてきた。
「そんなの先生から学べばいいだろ」
「それだけじゃダメなんだ!村の皆がおいらに期待してるって言うのに、最低クラスじゃ顔を見せられねえ」
期待を裏切らない為か。しかし、
「すまない。俺にもやることがあるんだ」
「そ、そだな。図々しいかっだな」
「隙間時間に少しアドバイスをするぐらいしかできない」
「ほ、ホントだか!?それだけでも十分だ!ありがとう!」
ガンツは俺の手を取り上下に激しく振っている。かなり強引な握手だな。
「それじゃ俺は一旦図書室に行くから、またあとでな」
「お、わかっただ」
部屋を後にした俺は図書室に向かった。
図書室は俺が学園に来た最大の目的だ。学園の図書室ならばきっと俺が求める書物があるはずだ。
「凄いなこれは」
目の前に聳え立つ書物の山ともいえる本棚の数々。どうやって上の本とかとるんだよ。と思わせるほど高い位置まで本棚はあった。
それで目的の物は...あった!
大分奥にあったが何とか見つけられた。
俺が手に取った書物は『職について』という論文と過去に存在した職をまとめた『職百科事典』の二つだ。
実を言うと俺は職を持っては居るがスキルを扱えない、いや正確に言えば扱った事がない。とある事情で幼少期に学んでいる筈の職やスキルについて学べなかったのだ。
その後れを取り戻そうとこの論文を探していたのだ。論文になら一般に広まっていない知識も混じっているかもしれないという憶測ではあるが、試してみる価値はあると思ったのだが…
「なんだよこれ」
薄い。ページ数もそうだが、内容も薄い。よくこんなものを論文として提出で来たなと言うレベルだ。
しかもなんだよ。「スキルは感覚で扱うモノである」って!!そんな感覚があるなら最初から使ってんだよ!それ以外の情報は一般で知られている事ばかりだ。
それにこれだけ書物があって職に関するものがこれだけって、本当に呆れる。人族は職を異常なレベルで信奉しているくせに研究は本当に一切してないんだな。
論文は期待外れだったが、せめて百科典の方は期待通りであってくれ。
しかし、頼みの綱の百科典も期待外れとは言わないまでも、俺の期待に沿えるモノではなかった。
「最悪だ」
わざわざこの学園に入学したのは無駄足だったかもしれない。受験費用がもったいないからもう少し粘ってみるつもりではあるが、どうなる事やら。
「帰ったぞ」
「ヤッホーイ!」
「またやってんのか」
「お、お帰り」
宿舎に帰るとガンツがまた寝床の上を飛び跳ねていた。
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