第1話
ヘルナと握手を交わしていると、段々と廊下が騒がしくなるのを感じた。
「人も来たみたいだし自由席だからボクの隣に座りなよ」
俺はヘルナに言われるがまま彼の隣の席に座り、他のクラスメイトがやってくるのを他愛のない話をしながら待った。
暫くすると流れ込むかのような大群が教室に流れ込んできた。間違えなく勇者がやって来たのが理由だろう。門前にいた奴らを全員引き連れて来たに違いない。
「おお、君もこのクラスなのか!」
教室に入ってきた勇者が早速絡んできた。一緒に来たもの達は嫉妬や興味の視線を俺に向けてくる。
何て迷惑な野郎だ。
「誰だか知らんが気安く話かけるな」
「ちょ、拙いよ!彼にそんな態度取ったら」
ヘルナが俺の態度を咎めて来るが、変えるつもりはない。こいつと仲良くなんてなったら周りの奴らが五月蝿そうだからだ。身の程知らずぐらいの扱いが丁度いい。勇者に下手に近づきさえしなければ、変な嫌がらせを受けることも無いだろう。
「ちょっと!勇者様に向かって何様なのよ!?」
ほら、案の定いた。態度は多少きつかったかもしれないが間違った事は言っていない筈だ。それなのにも関わらずこの有様。こいつらと関わるなんて面倒としか言えない。
「落ち着きなよ。確かに君の言うとおりだ。少々不躾だったかな。では改めて、僕の名前はアルト・ヴァーナー。一応勇者ってことになるかな。これからよろしく」
アルトと名乗った勇者は笑顔で右手を差し出してくる。
勘弁してくれ、多分コイツ分かっててやってる。俺の意図を理解した上で敢えてこういった行動に出ている。俺の態度に対する仕返しのつもりか。
ここで握手を突っぱねるのは流石に悪手だ。ただの身の程知らずでは済まなくなる。
「ああ、俺は平民のレイ。よろしく頼む」
俺は苦笑いを浮かべながら握手に応じた。
握手する手に籠る力は次第に強くなっていき、綺麗な笑顔を浮かべていた勇者の顔も少しづつだが歪んでいるのが分かる。きっと俺の顔も同じく少しづつ歪んで来ているのだろう。
そしてきっと目の前の勇者は俺と同じことを思っているのだろう。
こいつ、嫌いだ。
「平民だって?」「なんで平民がこんなところに」「見たことない奴だとは思ったが」「だからあんな態度」
よしよし、平民と強調した甲斐があったな。クラスは学園が決めているし俺に非はない。良識ある者なら無理に平民と関わろうともしないだろ。
「まぁまぁい良いじゃありませんか。平民と言えどこのクラスに配属されたという事は学園に優秀だと認められている証拠。大変すばらしい事ではないですか」
飛び交う不満に待ったを掛けたのは、紫髪の少女だ。きっと彼女は高位貴族の一人なのだろう。その証拠に先ほどの不満はピタッと止まり、皆彼女の言葉に耳を傾けている。
「言われてみればそうだな!」「平民の癖に凄いじゃないか!」「俺らと並ぶんだ恥は晒すなよ!」「よく見ると平民だけどちょっとカッコいいかも」
彼女の言葉で不満が一気に賞賛に変わった。馬鹿にされてる気もするが、一々気にしては居られない。
「それでは皆様各々席について先生方の到着を待ちましょう」
この場は完全に彼女に支配されていた。誰も彼女の言うことに反感をもたない。このクラスの殆どが貴族と言うなら、一人ぐらい門前で絡んできた奴みたいなのが居てもおかしくないと思うのだが
彼女がスキルでも使ったのか?それとも彼女の人望故か、どちらにしても恐ろしい力だな。
「ちょっと!みんなとすぐに打ち解けちゃってさ。ボクの事は無視ですか」
脇腹を突かれた。何者かと思い突かれた方に顔を向けると いかにも怒ってますと言わんばかりに頬を膨らませたヘルナがこちらを見ていた。
完全に忘れていた。勇者に意識を割かなければいけなかったとはいえ、一番の危険物の警戒を怠るなんて大問題だ。
「すまない」
「しっかりしてよね!君はボクの友達なんだから」
ボクのってどういう事だ?それじゃまるで
「だれと話してるんだい?」
反対側から声がかけられる。
そう、この勇者 どさくさに紛れて俺の隣に座りやがったのだ。確実に俺を嫌っているだろうに嫌がらせの為だけに近づくとか、鬼畜かよ。
と言うか本当に分からないのか?間違いなく勇者の視界にもヘルナは入っている。それなのに気づけないとは、気づける俺が特殊なのか?
「本当に分からないのか?隣にいるだろ第三王子が」
「どうも」
「!?とんだご無礼を」
その驚き様は意図的に無視してたわけじゃ無いのか。これが普通の反応なのだとしたら、最初のヘルナの反応にも納得がいく。
「良いよ別に。いつもの事だしね」
対応が俺との会話より声が数段冷たい。常に無視されていると考えれば妥当な反応なのかもしれないが
ガララ
「おはよう!皆そろってるか?」
閉まっていた扉が勢いよく開き、一人の大男が入ってきた。
アイツは...そうだ試験官だ。入試の実技における試験官だった筈だ。もしかして彼が担任なのか。
それなら幾らか気が楽になる。実技の時に数分戦った程度だが、それでもこの男の真っ直ぐさは伝わってきた。
「それじゃ、知ってる奴もいるとは思うが一応自己紹介から、俺の名前はベルト―ン・アンダー。このクラスの担任をすることになった。よろしく頼む!」
入試の時も思ったがベルト―ンの声はデカい。あの時でさえ耳を塞ぐものが居たんだ。この狭い教室じゃ、殆どが耳を抑えざるをえない。
「それじゃ、まずは順番に自己紹介してもらおうか!名前と挨拶だけでいいぞ」
すると生徒は廊下の一番前から順に挨拶し始めた。
特段気になる相手は居ないが、顔と名前ぐらいは一致させておくか。
クラスメイトが次々に挨拶していく中、ついにあの紫髪の少女の番になった。
「私の名前はオパール侯爵家長女マリアンナ・オパールです。皆様と研鑽出来ることを心待ちにしておりました。これからどうぞよろしくお願いいたします」
淑女を体現したような挨拶はその場の全ての者を俺含め魅了していた。いや、全ては嘘だったかもしれない。ヘルナだけは手遊びに没頭していた
何をやってるんだ。こいつは
そのまま順調に自己紹介は進みついには俺の番になった。
あのマリアンナのお陰ではあるが、クラスの一員として認められかけてるんだ。波風を成るべく立てない様に、周りを持ち上げるのが無難だろう。
「俺の名前はレイだ。先ほど聞いたかもしれないが平民で至らぬところがあるかもしれないが、皆に追いつけるよう努力したいと思い、ます」
最後は片言になったが上出来だろう。
「あれ?一人足らんな?第三王子か?誰か見かけてないか」
誰も反応を示さない。本当に誰にも認識されてないんだな。いつもの事だからか本人は相変わらず手遊びに没頭している。
「先生、足らないのは一人なんですか?」
生徒の一人が質問した。彼の疑問は最もだ、空いている席は全部で三つヘルナの分も合わせるなら四つだ。
「ああ、他のは全員事前に連絡を貰っている」
「おい、名乗りでろよ。欠席になるぞ?」
「良いんだよ。どうせ誰も覚えちゃくれない」
本人が良いというなら、俺から言うことはもう何もない。
「いないなら仕方ないか」
無事出席してる全員の挨拶が済んだことになった俺らは学園内の広間に連れていかれ入学式を行った後、各自解散の流れとなった。
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