半端者たちの饗宴<一度全てを失った俺最初から何も持っていなかった彼女の最強譚>

@shousama

プロローグ

「今日からここに通うのか」




俺ことレイはグランディア王国王都に位置する。王立グランド学園の門を前にそう呟いた。




グランディア王国とは魂を持つ4種族が1種の人族が納める国の一つであり、その人口の多くは人族で構成された国家である。




人族の特性としては生まれながらに職を保持しており、職に準じたスキルという物を扱う事が出来る。しかし職、スキルともに殆ど解明されておらず、分かっている事と言えば、成長する可能性がある事ぐらいだ。




人族はそんな根源すら分からない力を盲信し、人生の導にしてしまうほど愚かな種族というのが、多くの他種族の見解と言って相違ない。




「おい!いい加減にしろ!」




後ろから突然怒鳴り声が聞こえる。後ろを振り返ると騎士を後ろに控え俺と同じ制服を身にまとった人族の少年が顔を真っ赤に染めこちらを睨んでいた。




「平民!さっきから僕を無視するとはどういう了見だ!」




何に対してここまで怒っているのかさっぱり分からなかったが、よくよく考えてみればここは門前で、それを塞ぐ形で俺は立っていた。




門は途轍も無く広いため問題なく通れる筈だが、折角の門出だ。きっと彼は門の中心を通りたかったのだと勝手に解釈した。




「すまない。少し考え事をしていてな。邪魔をしたな」




「おい!何処に行くつもりだ!」




そう言い残しその場を去ろうとしたが、彼はそれを許してくれないらしい。




「この僕の行く手を平民風情が阻んだんだ。それ相応の謝罪をするのが筋だろう!」




彼は耳が悪いのだろうか?それとも頭が悪いのか、どちらにしろこれ以上関わっても良いことは無いだろう。




そう思い振り返る事無く学園内に足を踏み込んだ。




「クッ」




受験した時もそうだったが、学園内の敷地に足を踏み入れると体が急に重たくなる。この違和感は俺だけが感じているものなのか、学生を対象とした養成の一環なのか分からないが、修練の場所としては最適だと考えていいだろう。




「今すぐ奴を捕らえろ!僕自ら処罰してやる!」




何の罪で捕えようしているのか知らないが、大人しく捕まってやる必要はないか。流石に殺しては拙いと思い、迫ってくる騎士に対して反撃の準備を整える。




「もう、止めなよ」




「き、貴様は勇者」




俺と騎士の間に割り込ん出来たのは、金髪金目の人族の少年だった。




成程。これが勇者か。凄い存在感だな。




勇者とは職の一つで人族を含む3種族と敵対している第4の種族である魔族に対抗するべく神が遣わした使徒だと言われている。その力は凄まじく魔族の王に唯一立ち向かえる存在であるらしい。




今の状態じゃ全く立ち向かえる気がしないがな




「エルドラン君。ここは僕の顔を立てると思って引いてくれないかな?」




「あ、貴方が言うなら」




エルドランとやらの顔は先ほど憤慨していたとは思えないほど青ざめている。




職至上主義の人族からしたら、それほどまでに勇者の権威は凄まじいものなのだろう。




「そ、それじゃ。僕は失礼します」




エルドランは俺の横をそそくさと通り過ぎる。少し睨まれた気がするが、気にするだけ無駄だろう。




エルドランももう行ったし、俺が留まる理由は無いな。




俺は一人で学園内へとしっかりと踏み入った。






★☆★






「教室はここであってるな」




目の前の教室の室名札には大きく1-Aと記されている。




中からは人の気配は感じ取れない。どうやら俺が一番乗りらしい。




俺は扉を開け、教室内に足を踏み入った。




「なに?」




教室には先客がいたのだ。




しかしその存在はあまりのも異質だった。教室の外から気配を感じ取れないだけなら、自分がまだ未熟なだけが、こうして目の前にしてもなお存在感が希薄すぎる。




「お前は一体なんだ?」




警戒を最大まで引き上げ、目の前の異質に尋ねた。




「え?」




異質なものはこちらを見て驚いたような表情をした。その目はまるで信じられないとでも言いたげだ。




「う、嘘。ボクが分かるの?」




目の前にいるのだから分からない筈無いだろ。それより




「質問に質問で返すな。お前はなんだ?」




「あ、そ、そうだよね。ボクの名前はヘルナ・グランディア。この国の第三王子です」




その名には少しだけ聞き覚えがあった。二人の兄と妹に比べて才覚が乏しい事から無能だの出涸らしだの言われている王子だった筈だ。




「そ、それでボクの事が分かるってことで良いんだよね?」




「当たり前だろ。でなければ会話なんて出来る筈無いだろ」




「す、すごいや!君の名前を聞いてもいい?」




彼は本当に嬉しそうに小さくガッツポーズした後、恐る恐る俺に名を尋ねてきた。




「俺の名はレイだ」




「レイ君って言うんだ。えへへ」




彼はハニカミながら何度も俺の名を小さく復唱している。




「自己紹介もしたし、これでボクらはお友達だよね!」




先ほどから何なんだコイツは 入学する俺らの年齢は総じて12歳前後だろう。この本能は些か幼すぎると言わざるを得ない。王族なら尚更だ。




俺はコイツ相手にどのような態度をとるのが正解だ?


俺は困惑していた。コロコロと変わる表情に幼さを隠せない言動、その全てが嘘っぽいが嘘ではないと思わせる。




話した今なお異質な存在に対して俺がとった行動は




「ああ、友達だ」




相手と同じく嘘をつくことだった。






★☆★






「全く今年の新入生は大変ですね」




「全くです。勇者を始めとして、聖女に第三王子、公爵家、妖精族エルフに」




「卓越した戦力を有する平民の少年ですな」




「彼は一体何者なんでしょうね?あの戦闘における感はちょっとやそっとで身につくものじゃないですよ」




「それが分かったら苦労しませんよ」




「「確かに」」




「それはそうと、これで決まりなのでしょうか?」




「何がかね?」




「魔王討伐。勇者パーティーですよ!だってここまでの逸材が一年にそろう事なんて滅多にないじゃないですか!」




「私は反対ですぞ!!名誉ある勇者パーティーに平民が混ざるなどあってはなりません!!」




「そうかっかなさるな。我々の仕事は全ての生徒の成長を見とどける事です。そこに平民も貴族もありません。全ての教員はこの事をお忘れなきよう。これにて本会議を終了とします。解散」


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