最終話オッサンの正体

合格発表の日がやってきた。ネットで見れるが、やっぱり大学に行って直接確認したい。私は1人、大学までやって来た。


「いよいよやね、京子ちゃん」


少し早く来たせいか、人も少ないと思ったが、同じ考えの人は沢山居るようで、掲示板の周囲に早くも人だかりが出来ていた。


「京子ちゃん、缶コーヒーでも飲んで待とうや」


少し離れた自動販売機で暖かい缶コーヒーを買って飲んだ。


「気分はどないだ?」


なんてことはないよ。部活の掛け持ちから比べたら。オッサンと喋っていたらワァッと歓声が聞こえた。発表されたみたいだ。私は缶コーヒーを飲み干し、掲示板へ向かった。賑やかになっていた。無言で帰る受験生もいた。あれは私の数時間後の自分かもしれない。


「なんや、心配あらへんやないか」


私の受験番号が載っていた。喜びより、一息つけるのが嬉しかった。小さくガッツポーズをする。


「よかったなあ、京子ちゃん。目標の手掛かり、出来たやないか」


ありがとう、オッサン。勉強で煮詰まった時は励ましてくれたね。


「そんなもん、お安い御用や」


カラカラと笑いながらオッサンは答えた。


「なあ、京子ちゃん、行けるな」


何を言っているのかわからない。


「ワシな、神様の要請で新しく取り憑かなあかん人ができてん」


そんな、急だよ。


「京子ちゃんは今まで神様から助けてもらっててん。これからは立派な医者になって人を助けるんや」


嫌だ、ずっと居てよ。


「ワシも学生生活支えてあげたいんやけど神様がどうしても助けてほしい子がおるらしい。その子の所いかんとあかん」


寂しくなるね。


「大丈夫や。遠くから見てるで」


そうか、困ってる子、助けないといけないね。


「そうやねん。ワシも京子ちゃんの指導が認められてランクアップしたんやで」


どうなったの?


「ようは正式なコーチ、みたいなポジションやな」


オッサンは別れの挨拶に自分の姿を見せてくれるそうだ。私は帰宅して父に合格した事を伝えて部屋に戻った。オッサンは鏡に一度だけ映るという。私は意を決して姿見の鏡の前に立った。一番最初に立った鏡の前だ。


「オッス、京子ちゃん。変わったなあ。もう3年くらいの付き合いか」


大柄な男が鏡に映っていた。筋肉隆々とした中年、いやオッサンだ。


「どないや?カッコええやろ?」


まあまあね。私からプレゼントがあるの。私は鏡のオッサンにキスした。私の初めてだよ。


「これはサプライズなプレゼントやな」


鏡の男はニヤリと笑った。


「いつまでも見守ってるさかいな」


ありがとう、本当にありがとう。私は流した涙をぬぐわない。


「ほんじゃあな、京子ちゃん。頑張りや」


鏡の前で私は涙を流しながらいつまでも鏡の前に居た。


               ※


「おいおい君、君や君。誰やて?オッサンやがな神様の使いやがな」


ワシはまた一から説得する羽目になった。綾小路京子ちゃんよりずっと難しそうな子や。でも神様のお願いやから、断られへんのやなあ。


               了

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私、オッサンに取り憑かれました。 ミツル @petorarca

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