第6話 鰺フライ定食同盟


 翌日のお昼休み、五人の少女探偵団+と七人の――


「鰺フライ定食同盟?! 何それ?」

「鰺フライ定食を食すことによって魔法力の増進を図り、鰺フライ定食について語り合うことによって学年を超えた友情を育み、もって学院内外に鰺フライ定食のすばらしさを流布せしめんとする堅く清く美しい同盟です」


 間宮が朗々と弁じ立てる。なるほどね、この学院は変なやつに事欠かないというのが率直な感想だ。


「それがなんでまた下級生を拉致監禁することになったんだ?」

「いえ! 先輩たちはそこまでひどいことをしたわけじゃ……」


 中等部二年の伊藤カンナがかばい立てる。


「伊藤さん、わたしはひどいと思います。軟禁して無理やりマカロニサラダを食べさせ続けるなんて」


 中等部三年の新島穂香が遮る。お、付け合わせの話が出て来た。


「問題の根は深いようね。誰か客観的かつ冷静に説明できる人はいないかしら」


 棗よ、おまえはワイドショーのMCじゃないし、いくら見回しても鰺フライやマカロニサラダの有識者はここにはいないと思うぞ。瀬川がおずおずと口を開いた。


「わたしでは富士川先輩のご期待には応えられないと思うんですが、ちーちゃん手伝ってくれる?」


 軟禁されていた中では最年長の高等部一年の佐々木千鶴が頷く。


「わたしたち七人は鯵フライ定食を一緒に食べながらわいわいやってたんですが、ある時誰かが『付け合わせは他の定食と同じポテトサラダの方がいい』って言いだしたんです」

「それたぶん、あたしです」


 伊藤が手を挙げた。大きな瞳がくるくる回る、いかにも活発そうな子だ。


「それが先輩たちには気に障ったみたいで……」

「あったりまえじゃないのぉ! 鯵フライ定食にはマカロニサラダって神代かみよの昔から決まってんのよぉ! あんたらのやったことは反抗、反逆よ!」


 宇山が吠えた。どんな神代だよ。


「という感じで、マカロニ派とポテト派に分かれて抗争が始まってしまったんです」


 佐々木が説明する。抗争かぁ。事務所のドアに弾丸撃ち込んだりするのかな。


「マカロニ派が高学年で、ポテトサラダ派が低学年になったのは偶然?」

「偶然というか、つられてそうなったというか。……ちーちゃんは意外と頑固でしたけど」


 ぼくの疑問に瀬川が答えてくれた。


「抗争ってことは、マカロニサラダとポテトサラダを投げ合ったり? 辺り一面べっちょべっちょ、マヨネーズ祭りみたいな?」


 みかんが祭りなんて余計なことを言うから、甘柿が前のめりな質問をする。


「マヨネーズ祭りってスペインとかでやってるんですか? マヨネーズ女王とか決めたりするんでしょうか?」

「話が飛びすぎだよ。フライだけにね。……で、ポテトサラダをあきらめさせようとマカロニサラダを無理やり食べさせたってわけ?」

「元締め、鰺フライのフライはfry、飛ぶのフライはflyです」


 柘榴に指摘されるとすごく応える。こいつ、こういう時はいい発音しやがる。


「お恥ずかしい。下手なギャグを言おうとしたばかりに、無念」

「あの、無理やり食べさせたりしてません。他の食事を与えなかっただけです」


 久保の悪気のない瞳を見て、ぞっとした。


「それを無理やりって言うんです! もう一生、マカロニサラダ食べたくないです!」


 新島が涙ぐみながら訴える。


「そうですよ! 下着替えたいって言ってるのに……」


 伊藤がぼくの発言につられるように声を挙げて、あわてて口を閉じた。"影"の不満はそういうことだったか。


 そこに揚げたての特別メニューが運ばれて来た。鰺フライ、とんかつ、エビフライのミックスフライ定食だ。


「カロリーすげぇ」

「茶色いぃ」

「まさかこれがご褒美?」


 散々悪口言いながらソースをじゃぶじゃぶかけてパクパク食べている。これでご馳走になってる時期がいちばんいいんだぞ。食べてるうちに軟禁した側と軟禁された側のわだかまりが少しでも和らげばいいのだが。


「あのセンセ」


 左側に座っている甘柿が袖をツンツンしてる。


「なんだい?」

「自分で言うのもあれなんですけど、あの雷魔法の時はタガが外れてたのに、先輩たちにあまりひどい被害が出なかったのが不思議で」

「ああ、それね。知りたい?」

「はい、今後のこともあるので」

「そりゃそうだ。……あれはね、雷から護った人がいるんだよ」

「え? あの瞬間に? そんな時間なかったですよ」

「なかったねえ。でも、できるんだ。その人は余裕で」

「誰ですか? 富士川先輩? 豊田崎先輩? 本田谷先輩? ——あ、」

「わかった?」

「苺先輩ですか? そっかぁ、すごいですね。わたしなんかまだまだですね」


 おいしそうにエビフライを食べている苺を見る目は少し違っているようだ。


「そのわりにうれしそうだね」

「いえいえ」


 右側に座っている柘榴に言う。


「あのさ、『鯵フライ定食殺人事件』って言ってたけど、他愛もないことでよかったね」

「ちっちー。今回の事件は、鯵フライ定食が人を殺したんですよ、間違いなく。――新島さん! 鯵フライ定食どれくらい好きですか?」

「鯵フライ定食のためなら、死んでもいいくらい好きよ」

「軟禁されてたのにですか?」

「それとこれは別よ」


 それに和すようにわたしも、わたしもと鯵フライ定食同盟七人全員が、

「今度、鰺を釣りに行きます!」

「鰺フライが得意な嫁をもらいます!」

「心臓を射抜かれてます!」

と信仰告白をした。


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私立高等魔法女子学院(わたしがたてたとってもマジックなおんなのこのまなびや) 夢のもつれ @goiuji7

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