エピローグ:変えていく世界

《キッド様との決闘に勝利しました》



あのキッドへの毒瓶は、どうやら上手く成功したらしい。

そのまま黄金の一撃を浴びせても良かったんだが。

微量の反撃の意思を感じた割には、回避の『フリ』だけで……どうも違和感があったのだ。


だから毒瓶で1%を削り、もし不可能なら一度離れて闘おう――そう思っていた。




《――「ハハハ!やっと毒に掛かったか、ゲームオーバーだ!!」――》



この手を思い付いたのは、シルバーとのクエストの時……毒で死んだのを思い出したから。

偽武技のブラフや毒による攻めなど……思い返せばアイツらは色々と『手』を教えてくれていた。

ま、もちろん感謝はしていないが。


《――「その力を活かすのなら、ブラフやフェイントが有効だ。 想像する威力が大きければ大きい程ソレは効く」――》


あとはガベージに言った台詞も蘇った。

何というか、感謝出来ない相手ばっかりだ……。


でもやっぱり勝因は俺の中に積った兄さんの言葉だと思う。

RLをやる前は思い出せなかった会話が、ヒントとして自分に次々と降りてくる。



――なんて。調子に乗り過ぎかな。

キッドが99%なんていうハンデを背負っていたからこそ毒が効いただけで。

未だに謎の『暴食』スキルは、何かとんでもない力を持っている気がする。


「……はー、マジか。天才秀才すげーお前」

「褒めてもプロにはならないぞ」


「オレが約束を破るとでも?」

「……その肩に回してる腕は何だ」


「オレのモノにならない?」

「うっ、流石に気持ち悪い……」

「傷付く!」


こんな感じでベタベタされると思ってなかった。

てっきり悔しながらどっか行ってくれると思ってたのに。


「……でも99%だし。というか途中まで本気じゃなかっただろ」

「まあハンデ通り、持ってるスキルの一割も使ってないね」


軽くそう言うキッド。

一体どれだけのスキル所有してるんだ?


「じゃあ、そこまで俺は凄くな――」

「一応この『99%チャレンジ』、今まで突破された事ないんだわ!」


「え、何回かやってるのか」

「オレ一応プロだし。キホンは大会とかが主だけど、配信とかもやるわけ。その時リスナーと闘ったりするんだよこのハンデで」

「ああ……」

「あの投擲で大体終わるしな。どっかの奴みたいに反射させてくるなんて無い無い」

「……」


「凄さ、分かった?」

「……分からない。でも、凄く楽しかった。ありがとう」


「そういうとこー!!」

「は?」


さっきからキッドのテンションがおかしい。

でもリスナーか。どんな層なんだろうか。



「……で」

「……ハハ、オレも同じ事考えてる」


「……どうする?」

「……盗み聞きには罰だな――ッ!」



実は、途中から気付いていた。

キッドは背後を見ることなく、腰からナイフを二本投げる。


その影に――



「うわあああああ!?」

「容赦ないねっ!!」



《†殲滅のアバロン†  LEVEL49  ???》

《ブラウン  LEVEL49  裁縫術士》



緑から身体を投げ出す二人。

全く、居るなら居ると言えばいいものを。



「……ニシキさんめっちゃめっちゃスゴイカッコ良かったー!!」

「ははは……ありがとう。盗み見は良くないけどな」


「ね、キドっちあのスキル何? 聞いた事ないやつだけど」

「企業秘密でございます」



アバロンはこっちに飛び込んで。

ブラウンは笑いながらキッドに話し掛ける。


一気にうるさくなったな。



「でもまさか師匠が負けるなんて!」

「いや、ハンデが――」

「そうそう! いやぁやられたね」

「あはは、そういやニシキっちとジブンって引き分けだったっけ?」


「そうだな」

「……ちょっとブラウンさん!」


「なぁブラウン、それオレがテメーより下だって言いたいのか?」

「……さあ~?」


「おい! テメー今すぐ勝負しろ、ハンデありで!!」

「良いケド」


いつの間にか、キッド対ブラウンで決闘が始まろうとしている。

……本当に騒がしい人達だ。


「ニシキさん楽しそう」

「そうかな」


『楽しい』。

紛れもなく自分はそう思っている。


でもそれを誰かに感じてもらうのって、本当に難しいんだよな。



「な、アバロンは人を楽しませるにはどうしたら良いと思う?」

「……え、そ、そうだなぁ……」



色々騒がしいキッドとブラウンを横目に、アバロンにそう聞いた。



「おれは配信やってて、リスナーが居るんだけどさ。ソレで思うのは、色んなコトを『共有』することが大事だと思う、自分だけが楽しくても相手は楽しくないから。えーっと、例えばその、PK職を倒す時にリスナーと作戦を考えるとかさ」


「……確かに」



その答えに、どこかしっくり来た。

シルバーへの恩返し――それへのヒントとなる気がする。



「ありがとう、アバロン。ためになった」

「……へへ。ならおれも嬉しい――」


「――敗者は三時間デッドゾーンで耐久配信だ! 良いな?」

「オッケー!」



目の前、決闘を始める二人。

横のアバロンと共にそれを眺める。

この光景も、『彼女』が居なければ見れなかった。

闘う楽しさも。

強者への出会いも当然無くて。


だから――恩返しがしたい。

その為に俺は、出来る事をするだけだ。



「――『魂刀化』!」

「おいおいちょっと早すぎるんじゃねーの!!」



でも今は。

ゆっくり『観察』させてもらうか!

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やがて最強のPKキラー(職業:商人) aaa168(スリーエー) @aaa168

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