『暴食』
『大罪スキル』。
条件を満たしたPK職に付与されるその特殊なスキル。
名前通り七つの種類があり、プレイヤー各一人につき必ず一種類までしか付与されない。
そしてそのスキルの発動は『一日一回』まで。
その再使用時間の代わりに余りある性能を誇る。
大罪スキル、『暴食』。
発動中他のスキルは一切使用不可。
だが、その効果時間三十秒間の間、以下の効果を得る。
『次に自身が受けた攻撃によるダメージを無効化。その後、無効化した分のダメージを対象に跳ね返す』。
当然、跳ね返した後スキルは解除される。
単純なスキルだが、大威力の一撃を受ける前に発動すればそれだけでカウンターキルも可能なそれ。当然自身は無傷。
魔法だろうが投擲だろうが近接攻撃だろうがお構いなし、武器、スキルによる『攻撃』が入るのなら全て同じ。反射スキルとは違い『ダメージ』をそのまま跳ね返す為防御も出来ない。
そんな『切り札』を、彼は隠し持っていた。
ブラウンにもアバロンにも教えていない――そんなスキルを。
☆
急激な勢いで成長するニシキ。
でも残念ながら商人に対して、オレは相性が良すぎる。
「……」
「――来いよ」
笑みを貼り付けそう言った。
……正直ビビったぜ。
ここまでの奴だなんて思ってなかった。
最初、出会った時。新によく似た顔だなんて思った。
でも似てるだけ。
実力は『まだまだ』だった。
なのに今、オレの喉元に刃を突き立てているのは紛れもない事実。
投擲も、回避も――全て無効化しやがった。
『欲しい』。
テメーを、手元に置いておきたい。
その力を――もっと引き出してやりたい。
「――っ」
彼の踏み込まれる足。
回避するフリをしながら――その到達時間を見極める。
……なあニシキ。
認めるぜ、『黄金の一撃』は起死回生の力を持ってるが――
――この『暴食』は、さらにそれをひっくり返す!
「――」
迫る一撃。
もう、どう避けようがコレは当たる。
後ろに跳んでも、横に跳んでも。
屈んでもよじっても何をしようが。
彼の気迫がそうさせた。
――だから。
オレは、そのスキルを吐き出した。
拳が到達する瞬間を予測して――
「――『
《『暴食』状態となりました》
もう止められない。避けられない。
ソレはオレの『1%』を削り取る――はずだっただろうけど。
黄金なんて、結局盗賊が頂いていく運命なんだよ。
「――っ」
到達する輝く拳。
そして、全てのダメージが彼へと還る。
終わり。
残念ながら『相性』が悪かったんだ。
だから大人しく、オレのモノになれ――
――――《状態異常:毒となりました》――
「――ハッ?」
はず、だったのに。
『暴食』は発動せず。
倒れるはずのニシキは目の前に佇み。
無慈悲なアナウンスが、ソレを告げていて。
「ッ!? まさか――」
「賭けだったよ。きっと『何か』すると思っていた」
減少していくHP。距離を取り、未だに隙の無いニシキ。当然左手はまだ輝き。
そして――その『右手』に隠し持ってある空瓶。そして身体に掛かった紫色の液体。
それが全てを物語っていて。
「その様子じゃ、上手くハマったみたいだな」
暴食は受けた『攻撃』のみ。
例えばHPポーションと同じ、『毒瓶』という武器ではないアイテムを用いた攻めはその枠から外れてしまう。それ自体にダメージは発生せず『状態異常』が残るだけだからだ。
皮肉にも、暴食だろうが『毒』は食えない。
「――
『黄金に輝く拳』。
『その
『確実に当たるであろう一撃』。
……ふざけんな。
冗談だろ。
今までのテメーのそれは――全て、その『右』を隠す為だって?
オレが『黄金』に目を眩ませた隙を狙っていたと?
おい、なあ。
そんなもん……『新』だって思いつかねーよ!
「は……ハハッ、やられた。完敗だぜニシキ」
まるで輝く財宝に目が行って、罠に掛かる賊さながら。
己の滑稽さに苦笑いを浮かべながら――オレはそのアナウンスを待った。
《ニシキ様との決闘に敗北しました》
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