第37話 戦争開始

「■■■■■■――――!!」


 咆吼と共に、先頭を走る巨大なドラゴン。

 九つの首から上げる咆吼は、周囲一帯に響き渡るほどのものだ。少し離れた場所で布陣した僕たちにも、その声がしっかり届いている。

 かつて僕たちの敵だった、キングハイドラ。

 そして僕たちの仲間だった、キング。


「……」


 割と急いで、僕たちは西北まで進軍した。

 夜中から進軍の準備を整え、飛べる魔物によってレベルの高い面々を先遣として送り、迎撃準備を整えた形だ。このために七往復ほどさせたパピーは、既に疲労困憊である。

 まぁ、飛べる系の魔物が少ないのも、僕たちの欠点だ。さすがに、パピーの背中から足から全体にエリートゴブリン隊全員を乗せたのは、ちょっとしんどかったかもしれない。


「我が主、布陣は完了いたしました」


「ああ。すぐに動けそう?」


「は。ご命令あらば、すぐにでもキング殿の足を止めましょう」


「僕たちがやるべきは、キングの足止めだ。とにかく進軍させないように」


「承知いたしました」


 僕に傅くギランカに向けて、そう命じる。

 フェリアナ女王は、キングの足止めを僕たちに要請した。自分のところから離反した部下の始末くらいは、自分たちでつけろと。

 逆に言えば、僕たちはキング以外相手にしなくてもいいということだ。そして僕たちは十分な数がいて、キングはただの一体である。

 波状攻撃を仕掛ければ、さすがのキングでも進軍を続けることはできまい。


「しかし、我が主。本当によろしいのですか」


「うん?」


「キング殿の首を、斬るというのは」


「大丈夫だよ。あいつ、再生能力高いから。それに、再生している間は足が止まる。むしろ首を斬らないと、キングの動きは止められない」


「は……承知いたしました」


 とりあえず、エリートゴブリン隊――全員がレベル90台という破格の性能を持つ、ギランカの率いる部隊へと僕は命令を下した。

 全員で力を合わせて、キングの首を斬れと。


「ただ、九つの首全部を斬らないように。必ず一本は残しておくこと」


「は。して、どれほどまで耐えればよろしいでしょうか?」


「とりあえず、二日くらい耐えて。その間にドレイクが、どうにかして大教皇の首を取る」


「承知」


 まず、僕たちが出すのはエリートゴブリン隊だ。

 一体一体がレベル90超えであり、ゴブリンという最弱の魔物の枠を明らかに突破した彼らは、集団戦においてその真価を発揮する。彼らがしっかり連携さえ行えば、キングの足を数日程度止めるくらいは出来るだろう。

 そして二の矢として、リルカーラがその後に控えている。

 かつて魔王として君臨していたリルカーラは、キングハイドラを相手に互角に戦ったらしい。本人曰く、「アレに加えてゴルドバまで来たのだ。さすがの余も逃げる他になかった。だが、アレ一体ならば余が負ける道理などない」とのことである。

 さらに、リルカーラに従っていた魔物たち――レベル90超えの者たちも控えているから、キングに負けることはないだろう。ちなみに、そのうちの一体ベヒーモスのニーアは、アマンダの親友であるそうだ。


「ま、僕の出番はなさそうかな」


「そもそも、王であるノア様が前線で戦う必要などあるまいよ。先頭は、儂らに任せい」


「任せるよ、アンガス」


「うむ」


 エリートゴブリン隊と同じく、布陣しているのはアンガスの率いる部隊である。

 元々はドレイクの率いていた不死隊――アンデッドを中心とした部隊の、副隊長だったのがアンガスだ。だが現在、ドレイクが別行動をしているという事情もあって、一時的に指揮官を交代している。

 そして、連れてくることのできた戦力というのもそれほど多くないため、僅かに五十体程度のアンデッドたちだ。レベルは一応、全員90超えだけど。

 ちなみに、レベル90超えの魔物は多くいるけど、レベル99まで育成しているのはミロ、ギランカ、チャッピー、バウ、ドレイク、アンガス、アマンダの七体だけだ。これは一応、レベル99は僕からの信頼の証、ということにしているからである。ちなみに、リルカーラは最初からレベル99だからカウント外だ。

 今後は、もう数匹増やしてもいいかなとは思ってる。


「ドレイク師匠の分だけ、私も働きます」


「うん。頼むよアマンダ」


「はい! お任せください!」


 ミロ、チャッピー、バウの三体は現在、オルヴァンス王国に傭兵として赴いている。

 ドレイクは別行動。

 その結果、ここにいるレベル99はギランカ、アンガス、アマンダ、リルカーラだけだ。こうなると分かっていれば、三体も送らなかったのに。


「それじゃ、皆」


「はっ!」


「これから、キングを足止めする。だが、足止めをするだけだ。決して、殺しきってはならない」


「はっ!」


 僕に傅く、百を越える魔物の群れ。

 まぁ、一応注意事項としてそう告げておくけれど、多分心配はないと思う。キングの再生力って異常だし。

 あのときは、どうにか全員で首を九つ落とすという作戦で倒せたけど、正面からまともに戦ったら勝ち目などなかっただろう。


「ドレイクから吉報が入るまで、とにかく耐えろ。ただし、傷ついた者はすぐに撤退するように。命を賭してまで足止めをする必要はない」


「はっ!」


「では、出陣っ!」


「オォォォォォォォォッ!!!」


 咆吼と共に、僕の横を駆け抜けていく魔物たち。

 これからキングハイドラ――最強格のドラゴンを相手にするというのに、その戦意は昂揚しているようだ。


「ふっ。意気軒昂よの」


「……リルカーラ」


「されど、気持ちは分からないでもない。魔物の本分とは戦いだ。今までろくに戦いの場もなく、不満が溜まっていたことだろう」


「……そうなの?」


「当然よ。そしてそれは、余も同じくだ」


 くくっ、と笑みを浮かべるリルカーラ。

 元々は人間だったはずのリルカーラなんだけど、そういう気持ちは魔物と同じなんだろうか。


「では、余も出陣するぞ。うぬは、ここで高みの見物をしておれ」


「……そうさせてもらうよ。ドレイクが上手いことやるまでね」


「うむ」


 そう言って、リルカーラも低空飛行で出陣していく。

 そして、残されたのは僕だけだ。最初はアマンダが護衛として残るつもりだったらしいけど、僕の方から断った。僕、自分の身くらい自分で守れるし。

 だからこうして、僕は高みの見物をさせてもらう。


 ただし、それは。

 ドレイクが、あいつを。

 ヘンメルを殺したと、そう報告が入るまでだ。

 その報告が入ったら、すぐにでもキングを僕の仲間に戻してやる――。

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世界でただ一人の魔物使い~転職したら魔王に間違われました~ 筧千里 @cho-shinsi

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