第2話

 白髪の同じくらいのガキだ。病気か何か知らないが髪が真っ白だ。俺は黒いんだが…、あれなんでそんなこと知ってんだっけ。


「さっきの大きな音は君だろう?」

「お前誰だよ」

「いや僕は気づいたらここにいてね、自分の名前も知らないんだ」

 俺と同じか?

「あっそう」

「そういう君は誰なんだい?なんでこんなところに?」

「知らねえよ」

「じゃあさ、君はここはどこだと思う?僕は研究室か病院か、そこらへんだと思うんだけど…」

「…」

「そう嫌わなくてもいいじゃないか、僕と君以外ここには誰もいないんだし」

「お前おしゃべりだな」

「ははっ、そうだねー。そういえばいつまでも“君”って呼ぶのもあれだろう、なんてよんだらいいかな?」

「名前なんてねえし」

「そっかー、じゃあ『かい』ってよぶね」

「なんでだよ」

「だって君の部屋の壁にそう書いてるじゃないか。だから君も僕のことは『そう』ってよんでね」

「…」


 確かにこいつが出てきた部屋の壁には『創』と書かれている。そしてこいつが喋っている間に部屋の中を見たが、何か壊された形跡はなかった。どうやってドアを開けたんだ?


「あっ今不思議だーって顔したでしょっ、どうやってこいつ出てきたんだ?みたいな、僕は君みたいに乱暴じゃないからね、ちゃんとパスワードを入れてドアを開けたんだよ」

「いちいちうるせえな」

「そんなことよりさー、これからどうするの?」


 通路に出たとは言っても、右と左に分かれていて、どこに行けば出れるかもわからない。そろそろ喉も乾いてきた。それに、ずっとこいつといると気が滅入る。早く別れたい。


「なーどうすんのさ?」

「おい」

「何?」

「二人で手分けしないか?俺が右行くからお前は左行け」

「“お前”じゃなくて“創”って言えよ」

「じゃあな」

「おい勝手に行くなよ」


 ダッシュでその場を離れる。

 そういえば、あいつパスワード入れたとか言ってたな。そんなんどっか書いてたっけ?いやなかったよな。

 しばらく進むと少し開けたとこに来た。そして、これまで一本道だった通路が先で二手に分かれている。

 ここは病床か?ベットが6つ置いてある。それにしても俺がいた部屋と同じく汚れている。誰も掃除してないのかよ。

 ベットの他に、すみにタンスが置いてあった。引き出しを開けてみると、雑誌やら薬やらがごちゃ混ぜに入っていた。雑誌はだいたい部屋のものと同じ記事の内容だった。すると、雑誌を手に取ると一枚の写真が落ちた。雑誌に挟まっていたのだろうその写真には、どこかの子供たちと大人の人が一人写っていた。


「2059年…」


 撮られた年だ。写真の左下に書かれていた。


『天隣国の子供たち失踪! 一夜にして管理者ともども13名行方不明』


 その写真は、どうやらこの記事で挟まっていたらしい。確かこの記事の発行年代は2060年…何か関係あんの?

 薬の方は…睡眠薬、止血剤、Mんっ?なんてよむんだ?

 特にこれといって持っていきたいものはなかった。写真と雑誌も元に戻しておいた。先に進もう。

 ベットのシーツにはところどころ、血がシミみたいにこびりついている。部屋の匂いにも、少し血の匂いが混じっている。部屋を見回しながら確認し、今度は左の通路を進む。


 空気が少し重く感じる。さっきから血の匂いがだんだん濃くなってきている。さっきの部屋も、はじめの部屋も、灯りはついていた。だからある程度のものは見えた。だがこの通路は、進むにつれて闇が深くなっている。足元も、自分の手ももう全然見えない。壁に手をつけて歩いているのだが、壁の感触が気持ち悪い。カビを直接触っているようだ。しばらく進むと手をつけていた壁がなくなった。どうやらT字路に突き当たったようだ。今度も左に進む。また壁に手をつけて歩いていると、先にほのかな光が見えた。その光は時々揺れていて、少し暖かい感じであった。たいまつだろうか。近づくにつれて熱が伝わってくる。遠くの時は気づかなかったが、どうやら松明はT字路の突き当たりに立てられているようだ。俺の位置はT字路の「ー」の部分らしく、直進と右手に通路が分かれている。そして、たいまつのところに着くと、前から突然人の顔が現れた。


「おぉっ、壊じゃないか」

 最悪だ…

「また会うなんてね。僕が来たところには手術室みたいなところがあったよ。それにしてもここ暗すぎるよな」

「ああそうだな」

「なんで怒っているんだよ」

「お前が来たからな」

「なんだよその言い分、あんまりじゃな…い……」


 そのとき、右手から何かが飛びついてきた。

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壊創 gino @gino79

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