「敵方にチート転生をしてひっくり返そう」
物語としてはありがちな設定に思えますが、
キャラクターや世界観が非常によく練られていることと、
主人公が強くなるために痛みが必須なことより、独特の
世界観構築に成功していると思います。
また、ひとこと紹介にも書いたようにほどほどパロ(刃牙ネタなど)
もあること、1話が3000~4000文字程度で改行もしっかりしており
読む量や読みやすさも考慮されており、作者さんの心遣いも感じられます。
物語の進行自体はそこまで速いわけではありませんが毎日更新により
少しづつでもしっかり前に進んでいます。
単純な勧善懲悪でもなく、魔族には魔族の情や絆がある、
彼らをどうやって崩壊させていくのか、崩壊させた後は何が残るのか、
とても楽しみにしている作品です。
◆更新頻度:
1日1話
◆1話文字数:
4000~5000文字くらい。
普段は1話1話でうまくまとめられている。山場の場合は続く。
◆コメント返し:
非情に丁寧にコメント返しをされています。
コメント返しの時間をかなり取られているので、心配になるレベル。
◆感想:
端的に言うと、時間泥棒。
次の話へ、次の話へと夢中になっているうちに最新話に追い付いてしまう。
最新話からは、毎朝更新される頃に読みだす習慣が生まれる。
カクヨム読者であればいくつもの作品をお気に入りに入れ、同じタイミングでその作品が更新される事もあると思います。
もしくは時間が取れた際にまとめて読むというパターン。
その際に、最初に読むか、最後に読むかという選択対象になる。
そんなパワーを持った作品。
内容としては、人族側の勇者として魔王と戦い敗れ死んだ主人公が、魔王の息子として生まれ変わり、ままならない人族側の現状を覆すため、魂を削りながら耐え忍び、魔王を超えるために鍛え続ける話となります。
魔族側の精神性、人族側の絶望とそれに耐えつつ奮戦する姿、お互いの文化や生活の違いといったしっかりした背景も描かれています。
作品上、残酷なシーンもあるため、作品に没入しやすく感情移入しやすい方は、割り切って読むようにした方が良いかと思われます。
魔王子に生まれ変わった勇者。勇者として培われた戦闘技術に、魔族の恵まれた戦闘能力。恵まれた様に見える彼だが、進む道は修羅。魔王国を滅ぼす為に道を進めばかつての同胞である人族を手にかけ、やがて魔王国を滅ぼす時には共に道を歩んできた者達を手にかける事となるだろう。
そんな希望もへったくれも無い主人公が歩む様を描く今作だが、ストーリーラインはシリアスでありながら読み口は軽い。多種多様なキャラクターが生き生きと動いてコミカルに物語が進んでいくからだろう。
しかし戦闘シーンや命が関わるシーンとなると空気は一気に変わり、これが覇道ですらない邪道を歩む主人公の物語だった事を思い出させる。戦争で多くのものを奪われた人々の苦悩や慈悲無き命の奪い合いの数々には心を奪われずにはいられない。
笑えて、泣けて、カッコいい。三拍子揃った傑作であると、ここに称したい。
魔王子に生まれ変わってしまった勇者、彼の一人称で進む物語は、語り口と合間合間のパロディで一見すると"ぬるく"見えるかもしれない。
しかしながら、読者と主人公が『魔王子ジルバギアス』の日常の温度へ慣れを覚えれば、すぐさま冷や水を浴びせて思い出させる。
『勇者アレクサンドル』がどうして生まれたかを。
父母は殺され村は滅ぼされ、生き延びた者たちは尊厳を踏みにじられ、かつての戦友は終わりのない戦いで身をすり減らしては命を散らす。
ひとたび戦争で人間の国が呑み込まれれば、待ち受けるのは虐殺か、囚われの身としての未来なき延命か。
酸鼻極める敗者の有様が、ここは魔王城であり、主人公にとっての敵地だと知らしめる。
かといって、魔族を始めとした魔王国の面々は、決して心無き怪物ではない。
彼らには彼らの戦う理由が、種族の文化があり、情も誇りも、親子の愛も持ち合わせている。
仇としての身も凍る非道な一面、身内としての温かな一面。
どちらも真実、だからこそ煩悶が生まれる。
勇者であり魔王子、相反する立場で見える世界に悩み、惑い、それでもジルバギアス/アレクサンドルは進む。
本懐を果たすその日まで、守るべき者たちの血で手を汚し、魂の慟哭を上げながら。
その苦しみこそがこの物語の真髄であり、あるいは我々読者も、勇者が歩む修羅の世界を観測する魔神なのかもしれない。
人族の勇者が魔族の王子に転生し、人族側のために魔族への復讐をしていくという内容。
他のレビューにもあるように、魔族として転生した主人公の何気ない日常や合間に挟まれるパロディで笑いを誘いつつ、そうした何気ない魔族の日常の中にある魔族側の人族の扱いによってさらに募らせていく主人公の復讐心や出血量の多い戦闘描写。このユーモラスな部分とダークな部分との温度差がたまらない。
また、主な登場人物を掘り下げる話がどういう人物かしっかり伝わってくる絶妙な長さかつ内容で、人物の行動原理がいい意味で分かりやすい。毎日更新なのでテンポよく話が進む。こういったところが読みやすさに繋がっていると感じる。
もっと伸びろと思わずにはいられないです