禁忌を歩む復讐ファンタジーの傑作

魔王子に生まれ変わった勇者。勇者として培われた戦闘技術に、魔族の恵まれた戦闘能力。恵まれた様に見える彼だが、進む道は修羅。魔王国を滅ぼす為に道を進めばかつての同胞である人族を手にかけ、やがて魔王国を滅ぼす時には共に道を歩んできた者達を手にかける事となるだろう。
そんな希望もへったくれも無い主人公が歩む様を描く今作だが、ストーリーラインはシリアスでありながら読み口は軽い。多種多様なキャラクターが生き生きと動いてコミカルに物語が進んでいくからだろう。
しかし戦闘シーンや命が関わるシーンとなると空気は一気に変わり、これが覇道ですらない邪道を歩む主人公の物語だった事を思い出させる。戦争で多くのものを奪われた人々の苦悩や慈悲無き命の奪い合いの数々には心を奪われずにはいられない。
笑えて、泣けて、カッコいい。三拍子揃った傑作であると、ここに称したい。