第28話 お茶会の子供たち(三)
伯爵はにっこり笑って、首を横に振りました。
「悪漢ども! ご心配をさせてしまいましたかな?
荒くれ者のお相手には、確かに彼女は心強いのですが、そうではないのでそこは安心してください」
子供たちは、乱暴な話にマーガレットを預ける話ではなさそうなので、ほっとしました。
が、まだ油断は禁物です。
オリバーが、静かな声で尋ねました。
「その一座がどこにいるのか、もうわかっているのですか?」
そう。そこが知りたかった。
たずねる先がまだ見えないとなれば、どれだけの時間がかかるかわかりません。
「お心苦しいのは、その点なのです」
そのように申されるお顔がとても苦しそうだったので、子供たちは伯爵がお気の毒な板挟みにはなっておられぬか、心配になりました。
「まずその場所は、とある者がにぎっているのです。
問題は、その〈とある者〉なのです」
「厄介な人物なのですか?」
オリバーが静かに尋ねます。
「厄介、なのですよ」
伯爵もうなずかれました。
「姐さんよりも強いのかい?」
トムが尋ねます。
「そこは、重ねてご安心ください。腕でマルグリット嬢に勝てる者など」
どうも力のみで戦う相手ではなさそうです。
「姐さんが怪我をする心配をしなくても大丈夫?」
メアリが申しますと、伯爵は、
「相手は、むやみに斬りかかってくるような手合いではありませんので、そこもご安心ください」
そこまで聞きますと、子供たちはなんとなく飲み込めて参ります。
これは、姐さんが自分たちに隠している昔の稼業につながる話だろう、と。
「私たちがこちらのお世話になり、修業をしながら暮らしてゆけるというありがたいおはなしは、そのためですか?」
エリーがジャックの手をにぎってやりながら申します。
「差し出がましいことですが、その通りです」
子供たちが静かになりました。
「みんな」
そこに、マーガレットが戻ってまいりました。
「姐さん」
どうして。ほんとうは何があったの。
そんな言葉をかけようとしたのですが、顔を見ると、飲み込んでしまいます。
「伯爵。あたしからも、話させてもらうよ。
みんな」
いつもの強く優しい顔でした。
「これまでずっと、よくあたしの下で働いてくれたね。家もなくて食べ物もろくになくて、それでもよくついてきてくれたね」
どうしてそんなことを言うのでしょう。
子供たちは、どんな時でもマーガレットが好きでついて来たのです。
「このたび、あたしは伯爵様からのお仕事をお受けすることにしたんだ。あたしの力が必要な、異国で困っている娘さんを、助けないわけにはいかないだろう?」
「それはみんな、承知しているわ」
エリーが申します。
「俺たちはそれが嫌だなんて思っちゃいないよ」
トムも申しました。
「よく承知してくれた」
それにマーガレットはこう続けたのです。
「だから……みんな。一旦あたしたちはここでお別れするよ」
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空気伯爵と綱渡り人形 倉沢トモエ @kisaragi_01
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