3話 異世界転生

「何ですか、異世界転生って?」

「ほら分かるだろう。日本では流行ってるらしいし。不幸な事故で死んだ主人公が女神さまによって別の世界で生き返るってやつ」

 俺は目の前の男性が急に悲しく見えてきた。山奥で娘と二人暮らしながら、異世界転生を夢見ている。もしかすると、それが原因でこんな人気ひとけの無い場所に住んでいるのかもしれない。

「おいおいそんな顔すんなよ。別に俺がおかしいとかそういう事じゃないぞ。この辺りを歩いてきなよ。多分モンスターが……いや狩りつくしたんだったか。じゃあ山を下りたところにある街に言ってみると良い。異世界転生が本当だってわかるはずだ」

「はあ」

 少し話した後に家を出た。脱ぎ捨てた服を取りに、全裸を見られた場所へと戻る。




 露出魔になった場所へと戻った。服は地面に脱ぎ捨てられたままだった。お父さんに借りた服を脱ぎ、自分の服に戻った。だが瓶が見つからない。どこかに転がってしまったのだろうか。辺りを見渡す。あれには俺の指紋がびっちり着いているから、誰かに通報でもされたら、刑務所行きだ。あれ、さっきは露出、今回は殺人。状況が変わっていない。というよりもひどくなっている。こんなのばっかりだ。

 瓶を見つけた。がしかし割れていた。中を満たしていた液体も手も無くなっている。困ったな、動物に持っていかれてしまったのだろうか。




 その時、そばのしげみが音を立てて揺れた。茂みの大きさからして、タヌキか小型犬ぐらいしか入れないが、果たして何だろう。俺は距離をとっておく。野生の動物は小型だからと言って馬鹿にはできない。野犬なんかは狂犬病の問題がある。日本では狂犬病の症例はもう出ていない。しかしお父さんの言う事を信じ、本当にこの国が日本ではないのなら、存在する。まあ異世界なら狂犬病と言う概念がないかもしれないが。

 茂みの中からリスほどの大きさの動物が這って出てきた。それには5本の足を使って歩いている。いや、足ではない指だ。瓶が割れて中から出てきた手首が動いているのだ。最初は手首の辺りを引きずりながら進んでいた。しかし非効率だと学んだのか、全体重を指先に乗せ、手首を宙に持ち上げている。まるで人間が倒立しながら歩いているようだった。

 俺は腰を抜かしてしまった。

「うわあああああああああああああ」

 自分の手で這って逃げようとするも上手く進めない。何だこの気持ち悪い生き物。怖い、今すぐに逃げないと。

 手首はそれを聞きつけたのか(耳があるのかは不明だ)、こちらに向きを変えて進んでくる。

「こっちに来るなああ。ひっ、うわああああああああ」

 手首はさらに加速してくる。俺はもう終わりだ。享年不明歳、名前不明、ここにて眠る。クソ、何も分からなかった。

 手首に異変が起こった。少しずつ体が生えてきたのだ。手首が伸び、肩、首、胴、腰、足が着く。最終的に5歳ぐらいの少女になった。銀髪に、大きく開かれた青色の目。病的なまでに白い肌。美しい少女だった。ただそれは、モデルを見た時に感じるような美しさではなく、古代に作られた石像を見た時のそれに近かった。俺は少しの間見とれていた。だが、状況を冷静に分析する。人気の無い森の中、男と裸の少女。そう、少女は全裸なのだった。なぜ俺は、いつも犯罪者に近い立ち位置になってしまうんだろう。

「ちょっと君服を着てくれ」

 しかしここで問題がある。服の無い彼女に服を貸すわけだが、自分のでいいのだろうか、それともお父さんのにした方がいいのだろうか。自分のを貸したら、何と言うか、束縛の強い彼氏が彼女に自分の服を着させるみたいな、すごく嫌な感じになってしまう。やっぱりお父さんのにするべきだろうか。

 俺は地面に脱ぎ捨てた服を拾い、においを嗅いだ。やっぱ、くせ―。さっき言葉をにごしたけど、正直に言う。臭い。やっぱり自分の服にするべきか。

 迷った末に自分の服を差し出した。少女は何も言わずにそれを着た。これが、かれぴの気持ちか。よくわからない。ただロリコンの気持ちは少し分かった。

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