6話 名前を貰う

 外とは変わり、中は木でできていた。至る所に棚があり、よくわからない文字で書かれている。どこかの体育館の様に広く、なぜか天井にも本が収納されている。壁を見ると階段が本棚にくっついており、スライドできるようになっていた。誰かが天井で本を探していたが、足を滑らしたのか落下した。叫び声が辺りに響き、そして何かがつぶれる音と共に消えた。幸運なことに本棚の間に隠れていたので、死体は見えなかった。機械の起動音がする。そちらを見ると大きな丸いロボットが動いていた。僕の腰辺りまで高さがあり、横幅は1メートルほどだった。銀色のボディで、正面にはライトが付いていた。足はブラシになっており、どうやらあれで掃除するらしい。颯爽とどこかに行ってしまった。

「こっちこっち」と彼女はそんなことは日常茶飯事という風にカウンターへと向かっていた。僕は背中の彼女を見た。どこを見ているのかわからないような、透明な目をしていた。




 司書の男は痩せ気味で眼鏡をかけている。インテリぽい感じだった。

「あのすいません、その僕、記憶が無いんですけど、どうしたらいいですか?」

「それはライブラリアンとしての私に話しかけてますか?それとも普通の私ですか?」

 今何て言った?

「じゃあそのらいぶらいあんの方で」

「見たところあなたは転生した人ですね。それならばここに転生者戸籍名簿があります。転生し、能力を得た人物はその危険性からここに記載されることになっています。確認してみましょう」

 カウンターの下から辞書のような書物を取り出して言った。そこに置いてあるという事は、案外珍しい悩みではないのかもしれない。

「瞳の色が、髪の毛が、背丈が……。なぜ転生してくる皆さん似たような見た目なんですかね。探しにくくてしょうがないですよ。たまにはスキンヘッドで入れ墨とか特徴的な人は来ないんですかね?」

 そんなことを僕に言われてもなあ。

「あの、無いですね」

「は?」

「あなたは存在しないんですよ。この戸籍上には」

「つまりどういう事なんですか」

「この人は、自分が異世界転生したと思い込んでいる頭のおかしい人物。もしくは、もしくは、何ですかね?」

「でも転生をする前の記憶はあるんですよ。それなら転生した人なんじゃないですか」

「いやー、何とも言えません」

 困った。身元不明狂人。

「じゃあ、この子は何ですか?彼女も記憶が無くて、それにもともと手首だったんですよ」

「いや、分かりませんよ。そんなの初めて聞きました」

 この子も身元不明か。




「じゃあ、名前はどうしたらいいですか?」

 彼女が聞いた。今更名前何てどうでもいいだろうと思ったが、必要か。でもこの人に聞く必要あるだろうか。その気持ちを感じ取ったのか彼女は僕に言う。

「だってうちのお父さんはネーミングセンスゴミだし、私も無理だし」

 それには同意だが。でもなんだかこの人、怖いしなあ。

「じゃあこれはライブラリアンではない僕に対する質問ですね」

「はい」

 彼女が答えると、男は少しうつむいて考えだした。少しするとこちらを向いた。

「人が生きていると定義されるものはなんでしょうか?」

「心臓ですか?」

「それじゃあ生命機能が働いているだけにすぎないでしょう。持論ですが、生きているというのは積み重ね。過去のタスクや実績や記憶の積み重ねだと思います。つまりあなた方二人は生きてはいない。つまり死んでいるのと同じなのです。身元不明の死体に対してあなた方の世界ではどんな名前が付けられるか知っていますか?」

「いいえ」

「ジョン・ドウとジェーン・ドウですよ。あなたたちにはそれが相応しい」

 ノリノリで名前を決めてくれた。僕のしか頼んでいないのに彼女のもある。でも死体の名前は嫌だな。なんかもっとかっこいい名前が良い。

「もっと良い名前は無いんですか?彼女はアン・ハサウェイですよ。僕だってなんかそういう名前が良いです。キアヌ・リーブスとか阿部寛とか」

「そういう名前は、転生者が子供を産んだときに、願掛けのように付けているのすぎないんです。それにあなたはそんな名前で良いんですか?自己紹介できます?私の名前は阿部寛ですって、完全に名前負けですよ。彼の出演作品のテルマエロマエで言うなら、ルシウスではなく平たい顔族の方です」

 男は阿部寛に詳しいようだった。世界が違うのに、名俳優だなあ。というかそんなに言わなくても良くないか。結構死にそうになっている。

 そういうわけで僕の名前はジョン・ドウ、彼女の名前はジェーン・ドウになった。

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プラモデル型女神 組み立ての旅 普川成人 @discodisco

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