5話 下山

「記憶に穴が多くて、あまり読めませんね。ただ読める部分がいつもくだらない事をしているのは何でですかね」

「いや、分からない」

 深夜テンションの時の記憶しか残っていないのかもしれない。

「というか、あの腕と俺の関係はどうなったんだ」

「これもまた無いですよ。すぽっと、空白です。どうやらこの世界に来た時から目を覚ますまでの記憶がないみたいですね。いわゆる、認知症じゃないでしょうか」

 そういうのも異世界転生してるのか!!

「まあ、それは冗談ですけど」

「……」




 俺とアンはふもとの町を目指し、山を下っている。少女は疲れてしまったのか、地面に座り込んでしまったので背負っている。子供特有の体温の高さで、背中は温かかった。歩きながら、時折意識を背中に向けると規則正しい寝息が聞こえる。最初はいつ腕に戻るか心配だったが、多分大丈夫だろう。

 山の中には車のわだちによってできた道は無く、本当に誰も踏み入らないような山だったことを知った。アンはエルフ?ということもあって、動物が通った後にできる、いわゆる獣道を渡り継いでいく。山を歩くとき、遭難しやすいのは登山時ではなく下山時だと言う。これは頂上は一つだが、ふもとはそうではないからだそうだ。恐らく彼女とはぐれると俺は遭難してしまうだろう。辺りには同じような種類の木、空を見上げても枝によりって太陽はちらほらとしか見えない。山の本当の恐ろしさを知った。急激に体温が下がったような錯覚に陥り、不安になる。前を歩く彼女と俺の背中に伝わる体温だけが、それらを緩和してくれた。


 町に着くと高速ビルが立ち並び、ベンツが走っていた。なぜか全て外車なのだった。ほとんど普通の都会に見える。奇妙な点と言えば、建物の前に大きな木が生えていることだ。それは都会にあるまじき光景だった。緑化に力を入れているのだろうか。その木はなんだか、すべすべしており登りにくそうだなと感じた。

 また空から井戸の水をすくうためのつるべが下りてきていた。それを見てようやくここは異世界なんだなと思った。

「ここからはどこに行けばいい?」

「皆分からないことがあると図書館の人に聞いてるよ。そこに行けばいいんじゃない」

 というわけで図書館を目指すことにした。

 町を歩いていると奇妙な人々がいた。変にまでは行かない奇妙さ。右目が異様に大きく左目の小さい人、耳の形が奇妙に、福耳の範囲ではない奇妙さになっている人、鱗が目から流れ落ちている人がいた。最後の人は奇妙ではなく変というべきか。敷き詰められたアスファルトにはやはり外車ばかり走っている。名前は知らないがロゴマークは見たことがあったので分かった。

 図書館に着いた。石の柱が立ち並び、壮大な装飾があちこちに彫られている。全て石でできており、それには自分の姿が映っていた。ここだけローマ?とかそういう国の様だった。ぽっかりと開いている入口の中に入った。

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